第38回 教師陣との対面

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

 ニナが中学の最終学年を迎え、待ちかねたバック・トゥ・スクールナイトがやって来た。各科目の教師が何を基準に生徒を評価するかを把握することは、保護者には重要だ。それと同時に、職業病かもしれないが、教師がどのようなことを話すか、どのような個性の人物かに私は非常に興味がある。1科目につき10分しか与えられない中での説明は、いわば「教師のプレゼンテーション」なのだ。

 その日は2時間目の数学から教室を訪ねた。この中学で教え始めて7年になると言うソージ先生は、宿題と授業への参加姿勢で評点を付けると説明し、後はペアレントポータル(学区が運営する保護者向けのウェブサイト)で週に1度は子供の成績をチェックするようにとアドバイスした。

 3時間目は英語。イバラ先生は、自己紹介、年間の学習予定、評点方法までを早口でまくしたてた。 最後に「私にコンタクトしたかったらEメールしてください」と言っておしまい。4時間目は社会で、男性のフォースター先生。彼にはもしかしたらノアも教わったのではないか。しかし、印象が薄い。と言うわけでほとんど初対面のつもりで、説明を聞いた。「授業でのクロームブックは私が『使っていい』と言って初めて使わせる。クロームブックを私物だと勘違いしている生徒がいるが、教材と同様の位置づけだ」「エクストラクレジットは成績が低い際の埋め合わせを希望する生徒に与えるものではない。熱心に勉強し、成績もよく、さらに上を目指したいと望む生徒にのみ与えられる特別な機会だ」などと、この先生の説明は非常に筋が通っていた。また、授業にはいつでも予約なしで保護者が見学していいと言ってくれた。是非見学したい。そうすればフォースター先生の顔をしっかり覚えるはず。

「外国語を習う気持ちがわかる」

 6時間は一番楽しみにしていた中国語。チャン先生という女性教師。ニナは中国語がある曜日には、その日習ったフレーズを家で繰り返し、さらに中国語の早口にはまって5秒以内で言ってみせるとストップウォッチで練習している。教えるのが上手な先生に違いないと期待していた。チャン先生は次のように自己紹介した。「私は生まれも育ちも台湾です。13歳の時にアメリカに来ました。最初の頃は『ペンシルを持って』と先生に言われてもその意味さえも理解できませんでした。幸運なことにUCLAに進学でき、その間に家庭教師のアルバイトをしている時に自分は教えることが好きだということに気づきました。だったら自分の母国語の中国語を教えればいいのだと思いつき、今こうしています。もともと外国語だった英語を習得するのに苦労したので、今初めて中国語に触れている子供たちの気持ちが私には理解できます。習得するのならできるだけ楽しんでほしいと願い、早口や歌などを活用しています」

「学校嫌いな生徒も科学の世界に浸って」

 最後の時間は科学。昨年もエンジニアリングのクラスでニナがお世話になったベハナ先生が担当だ。この女性教師、とにかく落ち着きがない。言い換えればエネルギッシュ。机の上に腰掛けて足を組み、見学していた男子生徒をパワーポイント係に指名し、スクリーンに映し出された宇宙、物理学、化学の学習内容について手振り身振りで説明。印象的だったのが、次の言葉。「私の目標は科学を好きになってもらうこと。学校に来るのがいやで仕方ないという生徒にも、私の時間だけは目を輝かせて宇宙の神秘やサイエンスの世界に浸ってほしい。それが教師である私のチャレンジでありミッションです」。感動した。
 
 すべての説明を聞き終えて、家に帰って各教師への私の感想をニナに伝えた。ニナはやはり中国語のチャン先生のことが大好きだと言った。そして、片時もじっとしていないが熱心に教えてくれるベハナ先生のことも好きだそうだ。「先生になろうかな」とニナがぽつりとこぼしたので、すかさず「何を教えるの?」と聞くと、「日本語を教える先生になりたいな。ミス・チャンが中国語を教えているみたいに」と答えた。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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