H-2Bビザ保持者への賃金支払いについて

文/デビッド・シンデル(Text by David Sindell)

 米国連邦第3巡回裁判所によるケースに Comite de Apoyo a los Trabajadores Agricolas (CATA) v. Perez があり、本ケースの最終判決は興味深く、H-2Bでの雇用を考えている雇用主は賃金決定の前例として知っておくべきケースとも言えるでしょう。

 まず、H-2Bビザとはスポンサーとなる米国企業の一時的に発生する追加の業務ニーズに対して期間限定で適用されるビザです。年間発給に上限があり、有効期間は1年で、延長により最長で3年の継続が可能です。就労先での業務ニーズが外国人労働者による一時的な期間限定のものとして生まれているという点が申請上の重要なポイントで、ここでの一時的な業務ニーズとは業務そのものに対するニーズはもちろん、就労先となる企業のある特定の外国人に対するニーズも一時的なものでなければなりません。さらに米国移民法上ではH-2Bビザにおける外国人による新たな就労が行われることで既に就労しているアメリカ人労働者の職が失われたり、彼らの就労条件や報酬に悪影響を及ぼしたりしてはなりません。

 さて、この裁判ではH-2B保持者に支払うべき平均賃金額について、本来適用すべき労働局発行のH-2B 雇用賃金規則ではなく、会社提供賃金調査集によって現行賃金が定められていたことが問題視されていました。それが、この判決を通し、労働局は会社提供賃金調査集に基づくH-2B平均賃金の決定を取りやめることとしています。さらに労働局は、会社提供賃金調査集に基づいて決定された賃金額を使って申請された労働認定書の発行も今では取りやめているようです。こちらは労働局の正式ホームページにあるガイダンスから確認できます。

 今後、さらにH-2Bの規則に変更が見られる可能性はありますが、特にH-1Bの需要が高まる中、H-2Bビザのオプションを考えている企業も多くあるかと思います。今後の政府の動きには注意が必要です。

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デビッド・シンデル (David Sindell)

デビッド・シンデル (David Sindell)

ライタープロフィール

NY州およびNJ州弁護士資格。外国法事務弁護士(外弁)として東京第2弁護士会所属。アメリカ移民法弁護士協会所属。日本語、フランス語に堪能。

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