シリーズアメリカ再発見㊽
地球は回っている
ハワイ島マウナケアの日の出

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

午前5時すぎ、マウナケアの頂上へ向けてバンが走り出した。4205メートルまで、約20分かけて山道をのぼっていく。高い山だが斜面がゆるやかなため、山頂まで車で上がれる。

高山病にならないように「水をよく飲む」「深呼吸を繰り返して」と、ガイドさんから厳しく言われた。防寒着に着替えることも忘れずに。外の気温は摂氏5度。ビーチにゴルフ三昧のハワイ島だから、と甘く見てはいけない。マウナケアの山頂は、冬は積雪する。朝日を拝むなら、肌着に手袋、マフラーに耳あてまで、まじめな防寒が必要だ。

マウナケア山頂。「ジェミニ天文台」のそばにバンをとめて、日の出を待つPhoto @ Mirei Sato

マウナケア山頂。「ジェミニ天文台」のそばにバンをとめて、日の出を待つ
Photo @ Mirei Sato

漆黒の空が、やがて濃紺に変わり、強烈なオレンジの帯が上がってきた。金星がのぼり始め、そのあとを追うように、月がのぼっていく。

そして午前6時、太陽が、月のあとを追いかけて顔を出した。雲海の奥から、真っ赤な照射が始まった。

高山病の注意も忘れて、私は興奮して走ってしまった。すぐに息切れがした。でも走るに値する、走らずにはいられない、すばらしい瞬間だった。

地球は回っている。なんという不思議、奇跡の上に、私たちは生きていることだろう。

標高4205メートル、マウナケア山頂で、ご来光Photo @ Mirei Sato

標高4205メートル、マウナケア山頂で、ご来光
Photo @ Mirei Sato

真っ白の雲海は、ピンクと水色と紫色のグラデーションに染まった。生まれたての太陽が、天文台の銀色のドームを、燃えるように輝かせていた。ピンと張った空気。天文台の観測の機械音が、ゴーッと響く。凍えるようだった寒さも、太陽がひとたび顔を出せば、暖かさに変わる。

マウナケアの稜線の向こうに、もうひとつ薄墨色の山が見えた。並行して走る尾根のようだ。これは本物の山ではなくて、太陽が当たってできる「地球の影」なのだ、とガイドさんが教えてくれた。

地球の影、か…。そんなものを見たのは初めてだ。二度と見ることはない気がした。

■ ■ ■

海へ向かって広がる、ハワイ島の溶岩台地Photo @ Mirei Sato

海へ向かって広がる、ハワイ島の溶岩台地
Photo @ Mirei Sato

マウナケア山頂の日の出ツアーに参加しているのは、日本人ばかりだ。元旦には、「初日の出」を拝むツアーもあり、早くから予約でいっぱいになると聞いた。

考えてみると、欧米人は、サンセットは大好きだが、サンライズにはあまりこだわらない。日本人にとっては「ご来光」という言葉が示すように、日の出は夕日よりも大切で神聖だ。

ハワイ島の人たちはどうなのだろう。ホテルに戻って先住民のスタッフに聞いてみると、「ハワイアンにとっても、日の出は特別ですよ」と言われた。

ハワイの言葉で、夜明けは「バナアウ」(wana’au)という。夜の「闇」(darkness)は、「無知」を示唆する。それが日の出によって「光」(light)に変わり、「知」となる。

日の出から正午までは、マスキュリンな時間帯。自分の影が自分と一体になる正午は、1日のうちで最も「マナ」(mana=生命の力)が強くなる。だからハワイ島では、大事な儀式は正午に行われることが多い。

正午から日没までは、フェミニンな時間帯。1日の心配ごとや苦しみは、太陽とともに海に沈んで消えていく。だから日が暮れると、人は穏やかな気持ちになれるのだそうだ。

ちなみに、マウナケアの山頂では、日本を含めた多国籍企業が「TMT」(Thirty Meter Telescope)という直径30メートルの巨大望遠鏡の建設を計画中。これには「開発はいい加減にして、聖地を守れ」とハワイの先住民らが抗議し、裁判になっている。

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