意外に知られてない
ヨーロッパ情緒を湛えたメキシコ

文&写真/関克久(Text and photo by Katsuhisa Seki)

アメリカで最も信頼されている旅行雑誌と言えば、Traven+ Leisure, AFAR, Conde Nest Traveler, National Geographicなどだ。 2016 Travel∔Leisureが毎年発表する観光都市ランキングで、メキシコのサン・ミゲル・デ・アジェンデがフィレンツェを抑えて堂々の3位になった。

1位はサウスキャロライナ州のチャールストン、2位はタイのチェンマイという具合。もちろん世界遺産に指定されている事もその理由だが、坂が多い山岳都市でありながら、中世のコロニアル都市の建物がそのまま残る街並み、人懐っこい人々、そしてギャラリーが多くアート好きにたまらないパラダイス都市と説明している。坂の多い街はなんとなく情緒があるが、中世のコロニアル様式の風情があるとくれば世界から芸術家が集まるというのもうなずける。

世界遺産サンミゲルアジェンデの街

町のシンボルはラ・パロキア教会、メキシコで一番写真に撮られる教会として有名だが、17世紀、この地に住むゼフィーノ・グティーレス(Zeferino Gutierrez)という石工がヨーロッパのゴシック様式の教会の絵ハガキからインスピレーションを受けて建築したのだそうだ。 絵葉書1枚が設計図というのは、物凄い創造力だが、よっぱど感動したのだろう。

一枚の絵ハガキが設計図だったラ・パロキア教会

路地裏にはギャラリーやカフェがさりげなくある

ラ・パロキア教会の直ぐ近くにメキシコ独立戦争の英雄イグナシオ・アジェンデ(Ignacio Allende)の家がある。現在は博物館となっているが、風格がある建物だ。イグナシオ・アジェンデは今もメキシコシティーのラ・フォルマ通りにある独立記念碑の地下の霊廟に他の3人の英雄と共に永眠している。スペイン人は当初サン・ミゲル・エル・グランデという名で呼んでいたが、1826年にイグナシオ・アジェンデの業績を称えて、彼の名を街の名に加えた。

博物館になっているメキシコ独立戦争の英雄イグナシオ・アジェンデの家

アメリカからの金持ちがセカンドハウスとしてコロニアル風の家を買っているそうで、ギャラリーに加えてセレクトショップ、おしゃれなカフェ、そしてもちろんスターバックスもある。数百年前の建物だから、昨日今日に建てたアメリカのスタバは風格が違う。

スターバックスもある

メキシコと言えばカンクンや、ティオティワカカンやチッチェンイッツァの世界遺産のピラミッドが有名だが、実は世界遺産の宝庫だ。文化遺産だけでなんと27カ所、自然遺産が7カ所、合計34は世界で第7位を誇る。日本の世界遺産が20だからその多さがわかる。

ヨーロッパ情緒を感じるのはサン・ミゲル・デ・アジェンデだけではない。車で小1時間のところにやはり世界遺産の美しい町、グアナフファトがある。

美しいかつての鉱山都市グアナファト

グアナファトの街並み

ケレタロやサン・ミゲル・デ・アジェンデが農業、酪農や工芸を中心としたコロニアル都市だとすれば、グアナファトは鉱山を中心としたコロニアル都市だ。この地域に住んでいたオトミ族から、”Mo-o-ti” (Place of Metal)と呼ばれていたように、銀の鉱山として栄えた町で、今でもバレンシアーナ鉱山は銀を産出している。 同じく世界遺産のプエブラにあるロザリオ礼拝堂の眩いばかりの22Kの金箔は全てここグアナファトから運ばれた。

今なお銀を算出しているバレンシア鉱山にあるバレンシア教会

住宅地の真ん中にスペイン植民地時代に穀物倉庫だった立派な建物がある。1810年に民衆蜂起が起こり、グアナファトの貧しい鉱夫だったピピラが決死の覚悟で岩の盾を背負って入り口の木の扉に火を放ち襲撃した所で、今でも多くの銃弾の跡が壁に残っている。

今はメキシコの歴史や土地の文化財を展示する博物館として一般公開されているが、一見の価値あり。

今は博物館となっているピピラの偉業を残す建物

グアナファトの街の景観を維持できているのは、バスも車も地下道を走っている事だ。元々は3つの大きな川が街中を流れていたが、鉱山で水を使い果たしてしまったためそこが道路になったという訳だ。今でも下水道の跡などを見る事ができる。

道路は全て地下にある

そして観光客に一番人気の写真スポット、グアナファトの名物「口づけの小径」。貧しい鉱夫の若者(左の建物)と裕福な家の娘(右の建物)が数十センチしか離れていない窓越しに恋におちたラブストーリーで、最後に娘さんは父親に殺されてしまうという結末。

観光客に人気の写真スポット口づけの小径

街の中心にある「フアレス劇場」(Teatro Juarez)、ガイドさん曰くマリア・カラスもメキシコ公演の際にグアナファトにやって来てここで公演を行ったとの事。メキシコ公演は記録に残っているがグアナフォトの公演についての事実関係は調べられなかった。どなたかご存知でしたらご教示ください。ホールは赤の絨毯、赤の観客席で統一され豪華で立派なオペラハウスだ。

マリアカラスも公演したというファレス劇場

一つの見所は「ミイラ博物館」。200体以上のミイラが展示されていて、じっくり見るには相当の探求心と勇気が必要であまり気持ちのいい展示では無いが、素晴らしい保存状態で展示されている。 極上の状態で保存されているのはグアナファトの土壌と気候がなせる業で、鉱山で銀の精製で使った大量の水銀が土壌に残っていたために腐らなかったとの説もあるようだ。数々の装飾品がそのままに残っている普通の女性のミイラも多く、当時の生活の豊かさも垣間見ることができる。

素晴らしい保存状態のミイラの数々

グアナファトはまた学生と若者の街でもある。18世紀からの歴史を誇るグアナファト大学は、ハイスクールを含めて30,000人の生徒がおり、世界中から留学生が集まっている。週末はナイトライフを楽しむ学生や、近隣からの集まってくる若者の活気で溢れる。

グアナフォトの夜は陽気な学生達でにぎわう

農業、酪農や工芸品を中心として発達したコロニアル都市サン・ミゲル・デ・アジェンデとは違って、銀で栄えたグアナファトは富の蓄積の桁が違うためだろうか? 若い学生が集う活気に加えて、歴史、芸術・文化の厚みさえも感じられるグアナファト。是非、一度足を運んでみてはいかがだろう? ヨーロッパ情緒満喫に加えて、アメリカで食べる味の濃いメキシコ料理とは一味違う、素材の味が際立って美味しいメキシコ料理も魅力だ。

中世のヨーロッパ情緒のグアナファト

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関克久 (Katsuhisa Seki)

関克久 (Katsuhisa Seki)

ライタープロフィール

旅行のプロデュースに携わって30年。趣味は写真。「百聞は一旅に如かず」旅に出て初めてわかるのは、実は故郷の良さなのかも知れません。「旅は百薬の長」、皆さん旅に出ましょう!

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