腰を据えてゆっくり過ごしたい、東海岸のケープコッド

日本からアメリカに観光しに来る方は、短期間で複数のホテルに泊まりながら、できる限り多くの場所をめぐりたいと思う方が多いようだ。アメリカでは、お気に入りの場所に毎年行き、ホテルやサマーハウスなど1カ所に腰を落ち着けてゆっくり過ごすのが定番だ。どちらにも良さはあるが、今回は夏にアメリカンな休日を過ごすには持ってこいの場所、ケープコッドをご紹介したい。

長期休暇の聖地、ケープコッド

Cape cod canal

マサチューセッツ州の南東にある半島、ケープコッドは独特の形をしている。まるで人間が腕を曲げて、力こぶを見せているポーズのように見える。ケープコッドとは半島部分のすべてを占めるBarnstable郡の別称で、約22万人が住んでいる。しかし、夏の人口はなんと50万人以上になるといわれる。アメリカ東海岸からの観光客を中心に、北端(握りこぶしあたり)のProvincetownから最西端(脇の下あたり)のWoods Holeまでに点在する小さな町々で、約30万人もの人が長期休暇を楽しんでいることになる。

ニューヨークからだと車で東へ約3時間でBourne(肩のあたり)という地区に到着する。ここに来ると、いくつか気づくことがある。地図帳で見るとケープコッドは陸続きに見えるのだが、実はCape Cod Canalという水路で分断されていて、Bourne BridgeもしくはSagamore Bridgeのいずれかの橋を通らないと半島には渡ることができない。つまり、ケープコッドは島なのだ。

そしてこの水路沿いにある公園が、なんとも心地よい。晴れた日であれば、この水路を眺めているだけで一日を過ごせそうなくらいだ。水路沿いには、東の端から西側のランドマークであるRailroad Bridgeまで6.5マイルに渡って遊歩道が整備されていて、ウォーキング、ジョギング、自転車などが楽しめる。

Railroad Bridgeと遊歩道

ケープコッドといえば地名(Capeは岬、Codはタラ)からも予想がつくが、シーフードが特産。タラだけでなく、ロブスターやクラム(貝類)など種類も豊富だ。水路のそばのハイウェイ6沿いには「Lobster ROLL」の看板が目に入ってくる。「The Seafood Shanty」と「Barlow’s Clam Shack」という2軒の似たようなレストランがあり、どちらにしようか迷ってしまうが、値段も同じくらいで大きさも似ていてテイクアウトもできるので、家族や友人同士であれば、両方でロブスターロール、フィッシュ・アンド・チップス、クラム・チャウダーなどを買って食べ比べをしてみてはどうだろうか。味自慢の両者、見飽きない水路の景色、爽やかな風を感じながらの散歩、橋を渡る前から、否が応でも期待が高まる3点セットだ。

Robster Roll

歴代大統領にも愛されるリゾート

JFK 記念碑

島に入る前には、Railroad Bridge近くのTourist Informationで地元のガイドブックをゲットしておきたい。ビーチ、ヨット、おしゃれなレストランなど、海のリゾート感あふれる写真満載のガイドブックの中でひときわ目につくのが、ケネディ大統領とビールと灯台。アメリカ大統領の夏のバケーションといえば、この地域が定番だ。

古くはクリーブランド大統領が先述のBourneに、最近では、ケープコッドの中心地ハイアニスから高速船で約1時間のところにある高級リゾート島マーサズ・ビンヤードに、クリントン大統領やオバマ大統領が毎年のように行っていた。

ケープコッドの交通の要衝ハイアニスは、マサチューセッツ州と縁深いケネディ大統領の、いや、ケネディ家にとって心のふるさとともいえる場所だ。ハイアニスにはケネディ家の別荘があり、夏になるとケネディ家の人々が集まっていた。町のメインストリートには「JFK・ハイアニス博物館」があり、そこを起点としたケネディトレイルという道路上の点線をたどると、ケネディ家ゆかりの場所を歩いて見て回ることのできる案内もある。

少し離れたビーチには、ケネディ大統領の石碑が海に向かって立っている。そこから海を眺めると、ケネディ大統領がこの地でつかの間リラックスをしながらも、アメリカや世界のために思いをめぐらせていたのかと感じさせる特別な場所に思える。

JFK MUSEUM

歴史を感じさせる灯台めぐり

ケープコッド全景

ケープコッドは今でこそリゾートの島として知られているが、イギリスの植民地であった時代には林業が盛んで、材木を出荷していた。しかし過剰に伐採し過ぎて木がなくなり、農地としてもすぐには使えなかったため、漁業や捕鯨にシフトせざるを得なくなった歴史がある。

そこで必要となったのが、灯台。大西洋の荒波に面する東側(腕の外側)や南側(二の腕の下側)には、いくつもの灯台が多くの船の道しるべとして活躍してきた。その多くが、現役で今も昼夜問わず海を照らしている。

写真でよく見かけるのは「ひじ」のところにあるChatham 灯台。この灯台は、ケープコッドではプロビンスタウン近くのHighland灯台に続き、2番目に古い(Highland灯台は1797年にジョージ・ワシントンの命令でできたもので、Cape cod灯台ともいわれていた)。

場所の重要性からか、1808年に木造の灯台が2基設置された。1877年には鉄製の2基に変わり、役目を務めていた。この間しばしば「1基で十分では」との論争もあり、1923年に1基となったが、現在も沿岸警備隊の基地の一部として200年以上も国土の安全を守る役割を果たしている。

そして、Chathamから北へ約15マイルのEasthamにある、“半分、赤い”Naucet灯台。どこかで見たようなこの灯台は、アメリカ東海岸に住む人なら食べたことがあるだろう、Cape Codポテトチップスの包み紙に映っているあの灯台だ。

Naucet灯台が描かれたポテトチップス

ここにはもともとThree Sisters(三姉妹)と呼ばれる小さな灯台3基が設置されていたが、より高く強力な灯台が必要となった。どこかにそんな灯台はないかという時に白羽の矢が立ったのが、そう、Chatham灯台の2基のうちの1基だ。

1927年にはChathamで不要とされた真っ白な灯台が、Easthamに移築されたのだ。Chatham灯台と見分けるためか、1940年には上半分が赤く塗られ、ケープコッド沿岸でもっともアイコニックな灯台となった。この灯台の力強くも愛らしい姿はポテチの包み紙だけでなく、マサチューセッツ州の車のナンバープレートの絵としても選ぶことができるという愛され方だ。

ちなみに、このCape Codポテトチップスの工場は、ケネディの町ハイアニスにある。工場見学ができるのは平日のみ、併設のショップにはビスク味やハラペーニョ味など、スーパーではあまり見かけない珍しい味のポテチがあるので、ぜひとも寄りたい場所だ。

ポテチ工場

シーフードに地ビールに

sea street cafeのタラのFISH タコス

シーフードだけでなく、季節ごとに半島やその周辺で採れる野菜や果物(秋になるとクランベリーも収穫される)をふんだんに使った料理を提供するケープコッドのレストランは、全体的にレベルも高いと感じる。小さな町が点在する半島だが、カジュアルなアメリカン、高級なシーフード、カフェ、各国料理など、どの町でもおいしい料理が楽しめる。

それらの料理と合わせたいのが、この半島や近郊のレストラン、リカーショップにしかない、Cape Cod Beer。この醸造所もハイアニスにある。ハイアニス郊外の住宅街の駐車場みたいな所にあり、見落としそうな小さな場所だが、なんと81種類ものビールを作っている。Beach Blond Ale、Pilsner、Porter、IPAなど、アメリカで人気の種類から特産のクランベリーを使ったものやバニラ風味など多種多様だ。

Cape Cod Beer

アメリカでは地ビールがどこでも人気を博しており、例に漏れずこの地域でも強いビール愛を感じる。試飲(有料)や工場見学ツアーもあるが、その場でオーダーして樽から注いでもらい、HANG OUT(何をするでもなくゆっくり過ごす)することもできるので、ケープコッドでは押さえたい場所だ。

夏のケープコッドはベストシーズンなので、1週間くらい1カ所に腰を落ち着けて、ゆっくり過ごしたい。気が向いたらビーチやカフェに行ったり、灯台めぐりをしたり、ポテチ工場見学などへ行くのもいいだろう。予算を抑えたい場合は、時期をずらして春や秋に、少し長めの週末旅行でゆったりと観光を楽しむのもいい。どのシーズンでもアメリカ的な旅行の仕方で、予定を駆け足にせずにゆっくりしたら、より楽しめる半島。それがケープコッドなのである

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石井光 (Ishii Akira)

石井光 (Ishii Akira)

ライタープロフィール

旅行会社勤務。広島出身。在米12年。ジョージア、ウィスコンシン、ニュージャージー、テキサス、カリフォルニア、ワシントン州を経て、現在2度目のニュージャージー生活。その間アメリカの都会から地方まで40州200都市以上を訪問。あるときは真正面から、またあるときは裏側から、アメリカ各地をご紹介します。

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