ロサンゼルスの元敬老ホームのその後
日本のテレビが関係者に現地取材敢行
- 2017年7月1日
本誌3月号では、売却されたロサンゼルスの元敬老ホームを日系社会に取り戻す活動を続ける「高齢者を守る会(旧名称:敬老を守る会)」の報告会とデモの様子をレポートした。同会はその後も報告会を開催しているが、同会理事のジョン金井さんからの告知メールに「日本のテレビがこの問題の取材を開始している。5月の報告会では実際に取材を受けた人々に話をしてもらう」とあった。
5月20日、ジャカランダの紫色の花が咲きほころぶリトルトーキョーの某所に集まったのは60人ほど。まず、金井さんより次のような報告があった。
「先週の日曜から制作スタッフ2名がロサンゼルスに取材に来た。今回の問題を番組にすることで多くの人に知ってもらえる機会になるのではないか、とのことで協力させていただくことにした。まず、初日の日曜にはICF(中間看護施設)とサクラガーデンに行き、居住者3組と会ってもらった。さらに関係者数名、そして敬老創立者メンバーとしてただ一人の存命者、フランク・大松さんをミッションビエホに訪ねた」
制作スタッフらは今回の取材をもとに企画を局に提出する。高齢者社会となった日本各地でも、高齢者施設が売りに出され、外国の投資会社が利益目的で購入するという件が後を絶たない。そのような状況から元敬老の売却問題も日本で関心を持たれる可能性があるようだ。

5月の報告会では署名活動についての説明が行われた。左奥が金井さん
Photo © Keiko Fukuda
サービスレベルの深刻な低下
続いてICFで28年間奉仕を続けている女性から次のような現状が知らされた。「経営母体が昨年の2月に変わり、看護師の医療保険も変わった。自身だけであれば掛け金にそれほどの違いはないが、家族分も入れると多額な掛け金が引かれて、2週間分の給与が80ドルという人もいる。そこで一斉に看護師が辞めている。新しく採用された看護師たちはお風呂の入れ方もわからない。レジデントの名前さえも覚えられない。以前のICFは(評価が)5スターだった。今は3スターに下がっている。インスペクターが来ればさらに下がるだろう。また、ボイルハイツの施設からはダウンタウンの夜景が素晴らしい。買い取った会社が不動産会社だから(施設が)高級コンドになってしまうのではないか、と思う」
守る会は、施設を売却した敬老サービスに対して、それまでの資産と売却益を合わせた7300万ドルを日系社会に返却するように活動を続けている。せめて看護師への医療保険代だけでもサポートしてほしいと訴えたが、敬老サービスからの返答はノーだった。しかし、敬老サービスは一方で、44もの非営利団体に助成金を提供することを決定している。金井さんは「その団体のどれも、敬老サービスが活動目的に掲げるシニアともヘルスケアとも関連がないように思える」と語った。
最後に今回取材を受けた医師の入江健二さんが壇上に立った。「最初に敬老ホームについて羅府新報に原稿を書いたのは1983年。当時は優れた施設であることに感銘を受けた。入居者に床ずれができない、欲求不満で叫んでいるような人がいない、糞尿や汗の匂いもしない非常に清潔な施設で、他の介護施設と比較するといかに勝っているか、それは歴然としていた。しかし、売却されてしまった。介護施設としての形態を保てる期限は後3年と9カ月しかない。メディキャルを受給している入居者の運命はどうなるのか? テレビ制作者にはどういうことを番組で訴えるつもりかを聞いた。すると、ボランティアのおかげでこれまで運営してこられたこと、敬老ホームにいたかったが状況が変わったために日本に帰国せざるをえなくなった人のことを紹介するつもりだと答えた。それでは結局、『仕方がない』と言うメッセージを伝えることになる。いい番組になれば活動の助けになるが、たとえ番組が実現しなくても活動は続けていく」
同会ではロサンゼルス各地で開催される夏祭りの会場で、敬老サービスが抱える資産を日系コミュニティのシニアのために使ってほしいとする署名運動を大々的に展開する。
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