高校には生徒の大学進学の相談に乗り、アドバイスしてくれるカウンセラーという職員がいる。ニナの高校には数人のカウンセラーが在籍しており、AからGまではミスター・Xというように、苗字のアルファベットで担当する生徒が分かれている。
カウンセラーは大学に関するアドバイスはもちろん、その進路に沿った教科の選択など学習全般について指導してくれる。以前、取材した教育評論家が「学校のカウンセラーを利用しない手はない。どんどん訪問して自分の味方に付けるべき」と言っていた。それが忘れられなくて、ニナにはフレッシュマン時代にも何度か「カウンセラーのところに相談に行ってみたら?」と言ってみた。しかし、本人の答えは「まだ必要ない」という素っ気ないものだった。そしてソフォモアになったニナ。いまだにどこの大学がいいか、何を学ぶのか、将来何になりたいのかがはっきりしない。そこでまた私は言ってみた。「カウンセラーに相談してみたら?」。しかし、今度の答えも「そのうちね」だった。その気にするのは難しい。
ところが10月のある夕方、ニナがこう言った。「今日ね、カウンセラーに呼ばれて、お話をしたよ」「え? 呼ばれた? それって穏やかじゃないね。何したの?」「ニナが宿題で描いた絵がヒストリーの先生に理解してもらえなくて、カウンセラーに報告がいったの。それでカウンセラーが詳しい話を聞くために私を呼んだの」「あなた、一体何の絵を描いたの?」。
絵の詳細は本人のプライバシーの問題もあるのでカット。ちなみに絵のお題は「学校が抱える問題」だったという。ニナはかなり刺激的かつ劇的な表現手法を用いたらしく、歴史の教師はニナの精神状態を疑ったのかもしれない。
私は質問を続けた。「それでカウンセラーは何て言ったの?」「ミス・Gはね、『私はおそらく、この絵を通じてあなたが描きたかったことを理解していると思う。先にあなたの考えを聞かせて』と言ったから説明したの。そうしたら『やっぱりね、私の思った通りだった。それならまったく問題はないから、ヒストリーの先生に私から話しておくわ』と言ってくれた。とっても優しかった」とニナ。
相談のプロ
続いて、ミス・Gは落ち込んでいる科目について指摘。ニナは「テストで大失敗をしたの。それを埋め合わせるために今頑張っているところ」と答えた。すると「テスト用紙は戻してもらえるから、何を間違ったか分かっているでしょう?」と言った。「いいえ、ミスター・Lはテスト用紙を返してくれない。だから間違った箇所が分からない」と言うと「それはミスター・Lにメールしてちゃんと言わなくては。私から言うわね」と約束してくれたとニナは喜んでいた。
さすがにカウンセラーは生徒の相談のプロらしく、次々に本音を引き出すものだと感心。将来の進路を聞かれて「やっぱり絵が描きたい」と答えたところ「でも絵だけだと仕事に就くのは難しい。サイエンスが好きなら教科書の挿絵を描くイラストレーターはどうかな? そのためには絵だけじゃなくてサイエンスもしっかり分かってないとダメなのよ」とアドバイスしてくれたとか。また、両親が日本から来ていること、兄は日本にいることを話すと、そのアジア系の女性カウンセラーは「私は日本の大学に留学していたのよ」と言ったそうだ。
ニナはシャイな性格だ。なかなか新しいドアを叩くことができない。でも、今回、彼女が問題視されるような絵を描いたことで、カウンセラーと知り合うきっかけができて逆に良かったと思う。本人に「じゃ、これから何でもミス・Gに聞きに行けばいいんじゃない?」と言うと、「そうだね」と答えた。私もホッとした。
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