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海外教育Navi 第3回
〜帰国準備〜〈前編〉
記事提供:『月刊 海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)
- 2018年5月1日
海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団に所属するプロの相談員たちが一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。
Q.帰国が決まりました。子どもにはどう伝え、どんな帰国準備をしておけばよいでしょうか。
親にとっては帰国、子どもにとっては異国への出立
帰国の辞令を受けると家族はふたたびその準備を始めることになります。親には母国に戻る安堵感もありますが、子どもにとっては滞在期間が長ければ長かったほど、あらためて異国に移動するような感覚になるものです。まずはそのような子どもの気持ちをしっかり受け止めてあげることが大切です。
帰国が決まったら、家族全員がそろったときに父親から帰国することを伝えるとよいでしょう。子どもは多くの場合、現状の生活を維持したいと望みます。ようやく自分の居場所が見つかり、心の通う仲間もできて日々の生活が軌道に乗ってきているからです。
我が家の場合、娘たちが3歳、5歳で渡米し、11歳、12歳で帰国することになりました。娘に帰国の話を伝えると、「いつ戻ってくるの。親友と離れたくないよ!」と泣かれました。子どもは、ようやく慣れた場所や仲間からふたたび「剥される」という心の痛みを感じるのです。
知人家族の例
知人の家族(アメリカ駐在5年半で帰国)は、滞在4年目を迎えたときに、帰国の準備と時期に関してよく話すようにしたといいます。子どもには次のことを伝えたそうです。
①一日一日を楽しむこと
②経験をいっぱいすること
③大好きな友達とたっぷり過ごすこと
その後実際に帰国の辞令が出たときには、やみくもに伝えて子どもたちが不安になるといけないので、夫婦である程度の帰国の日程と帰国後の生活の見通しを立ててから子どもひとりずつと話し合いをしたそうです。
■高2の長女には在籍していたニューヨークにある私立在外教育施設の寮に入り、1年後の卒業までひとりでしっかり生活することを約束させ、帰国後の生活や疑問についても説明したほか、将来の夢や目標についても話し合った。
■中3の次女には日本に戻って高校受験をしなければならないことを説明したうえで、将来の夢や、どのような人間になりたいかについて話し合った。そのため受験校や志望理由が明確にイメージでき、自分で道を切り開いていかなくてはいけないと覚悟できたようだ。
ただ米国では高校まで義務教育であり、その時点ですでに高1になっていた次女は、日本に帰ると中3になることや、日本の高校を受験することに最初は納得がいかないようだった。しかし残りの日々を、金曜日の夜は現地校の友人と思い切り楽しみ、翌朝は塾に通い一日中勉強をするというリズムで受験生活にメリハリをつけた。大変ながらも時間の有効活用ができたようだ。
■中1の長男は現地校でも友人が増え、逆に日本語で文章を書くことが苦痛になっていた時期でもあり、何度も丁寧に帰国後の生活について説明した。彼は寸暇を惜しんで仲間との交友を続けていた。
現地で帰国前に子どもにしてあげられること
子どもたちが仲間としっかり別れができるように配慮してあげましょう。きちんと別れることで決着がついた子どもは次のステップへ前向きに進んでいけるのです。
①メールアドレスと帰国後の住所を手づくり名刺にして友人たちに渡す
②メッセージカードを書く時間を設ける
③会いたい人と(場所が遠くても)再会の機会をつくる
④ベストフレンドとお泊まり会をする
⑤遊園地などで、友達と一日中思い切り遊ぶ
⑥いっしょに戦った体操チームのメンバーをピザ屋に全員招いてお別れ会をする
⑦好きな本をたくさん購入する
⑧家族旅行をする
日本に向けての準備としては……
①新聞やニュースで日本のことを見聞きする機会を増やす
②食卓で日本のことを話題として出すようにする
③日本と現地の違い(習慣、マナー、電車等)などについてときおり話題にする
帰国後の心配
Re-entry shock
赴任が長ければ帰国後の子どもの国語力をはじめ日本での学習が不安になります。注意したいことは、子どもの心と体の管理をしながら、ゆっくりと環境の変化に慣れさせていくことです。焦らないことが肝心です。
ある少年は自分の思い描いた帰国後の生活と現実とのギャップに孤立感を覚え、「こんなはずではなかった」という不満を親にも言えず苦しんだといいます。海外にいたときにはいつも心配し共感してくれた親が、帰国したら自分の気持ちを理解してくれていないと感じる子どもは多いようです。それがre-entry shock(再入国ショック) として現れることもあります。
成長過程を海外で過ごした子どもたちにはその間の日本の文化、習慣等、日本にいたらあたりまえに理解できることでもわからないことが多々あります。親が子どもとよく話し合うことができる家庭は適応障害の解消が早いといわれています。子どもの気持ちに寄り添い、話をしっかり聞いてあげるようにしましょう。
→「第4回 〜帰国準備〜〈後編〉」を読む。
海外子女教育振興財団「渡航前配偶者講座」講師
小木曽道子(こぎそみちこ)
ニューヨーク補習授業校教諭、洗足学園短期大学幼児教育科教授、デリー大学東アジア研究科講師を経て、現在は国際幼児教育学会理事。海外子女教育振興財団の通信教育「幼児コース」の監修を担当。翻訳絵本に『やまあらしぼうやのクリスマス』『ぞうのマハギリ』、共著で花鳥風月をテーマにした友禅染絵本『はなともだち』『あいうえおつきさま』などがある。
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