日本の年金、資格要件の10年短縮について ~要注意! ぜひお読みください~

文&写真/蓑田透(Text and photo by Toru Minoda)

すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、国民年金、厚生年金、共済年金などの日本の年金制度について老後の年金をもらうための資格要件が、2017年8月に従来の25年の年金加入(毎月の年金保険料を支払うこと)から10年の年金加入に改正されました。

どういうことかといいますと、たとえば米国に移住する前に日本で12年間働いていた人がいたとします。この人は12年間日本の厚生年金に加入し、その間会社から支払われる毎月の給与から厚生年金保険料が控除され、その分を会社が日本年金機構へ払い込んでいたわけです。ところが(2017年8月までは)資格要件である25年に達していないため、老後の年金をもらうことはできませんでした。しかし今は資格要件が10年となりましたので、12年間分の保険料に相当する年金額を申請してもらうことができます。

1.海外在住者に適用される例外措置

海外在住者、そのなかでも特に20~40代の頃に米国へ移った永住者の場合、日本の年金に加入していたものの、加入期間が数年~十数年であったため、従来の資格要件である25年に達していませんでした。しかし例外措置(海外在住期間のカラ期間算入扱い、または日米年金加入期間の通算扱い)により25年の資格要件を満たすこととなり、一部の人は老齢年金を受給することができました。

そして2017年8月、この資格要件が25年から10年に短縮されたことで資格要件を満たす人がさらに増え、より多くの人が年金をもらえることになりました。以前に年金保険料を払っていた加入者にとっては嬉しいニュースなのです。

2.海外在住者が注意すべき点(過去遡及分の扱い)

さて、前置きが長くなりましたがここからが今回の本題です。老齢年金は老後にもらう年金ですが、もらい始める年齢(支給開始年齢)は60~65歳で生年月日によって決まっています。一方、受給のための申請手続きは、自分自身で年金事務所へ出向いて(または郵送で)行わなければなりません。本来63歳が支給開始年齢の人が、67歳の時に「自分はもらえるかもしれない」と気付いて申請手続きをした場合、すでに過ぎてしまった63~67歳直前までの4年間分は過去遡及分として一括でもらえます(この過去遡及分は最大5年分までしかもらえません)。

前述の日本で12年間働いていた人が実際に老齢年金の申請手続きを行う場合、2017年8月までは資格要件の25年に達していないので、申請時に自分で例外措置による25年の要件をアピールする必要がありました。ところが現在は10年短縮措置によりすでに資格要件を満たしていることとなり、例外措置をアピールしなくても受給可能となりました。

ここで誤解が発生します。従来の資格要件(25年)の制度の下では過去遡及分は最大5年分まで遡れますが、新しい資格要件(10年)の制度の下では2017年8月までしか遡れません。図で表すと次のようになります。

つまりこの人は日本の年金加入期間が12年なので、「資格要件の10年を満たしている」とアピールしてそのまま申請すると、2017年8月分までしか過去遡及分が貰えない可能性があるのです。2017年8月以前の従来の制度の時と同じように、例外措置を使って資格要件25年を満たしているとアピールしなければ、本来の支給開始年齢の分まで遡って過去遡及分をもらうことができません。

3.実際の手続き時の誤解

上記のことは年金事務所や共済年金組合の窓口職員の人も当然に分かっているので、申請者が自分からアピールしなくても念のため確認してくれます。しかし以下のようなケースでは、資格要件が25年あるのに10年として取り扱われる可能性があります。

・海外在住者の申請手続きについてよく理解していない年金事務所や共済年金組合の職員に当たってしまった場合
・本当は資格要件が25年あるのに、それを証明する方法が分からない場合
・元々の資格要件が10年未満の人が、例外措置により10年を満たせたとそれだけで満足してしまう場合

4.最後に

上記についてはなるべく分かりやすく説明したつもりですが、分かりづらい内容なのでご理解いただけないかもしれません。また誤解が発生するかどうかは、その人の生年月日、年金加入状況、国籍などの要因によって異なります。うまく理解できない、自分が該当するかもしれないとお思いの人は、直接私どもへお問い合わせください。

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蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、介護・葬儀・相続など日本在住の老親のサポート)を行う。

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