短期集中連載
第1回 続・ポジティブ皮膚科学のススメ
冬の紫外線対策

1年ほど前に本誌で皮膚科の連載をした、皮膚科医の小川徹です。今回はその続編です。私は、「ポジティブ皮膚科学」という世界初のコンセプトを提唱しています。人々の心を明るく、気持ちを前向きにできるよう、皮膚科学を基軸に心理学や芸術学、商学などといった、他分野との結びつきにより皮膚科学を応用する横断的なコンセプトです。

そう思うようになったきっかけは、あの3.11、東日本大震災でした。皮膚は体の外から見ることのできる臓器です。皮膚科学は美容やアンチエイジングなど、特殊な領域との結びつきの強い診療科のひとつでもあり、人々の心の持ちようにも強く影響しています。人を笑顔にできるひとつの手段が皮膚科学であると、私は信じています。そして日々の生活の中で皮膚科学を広くとらえ、「ポジティブ皮膚科学」を意識することは、幸運を引き寄せ、人生を好転させていくきっかけになりうると考えています。皮膚科学が、多くの人にとって人生を前に進めていく契機となれば、大変嬉しく思います。

さて、今回は冬の紫外線対策についての話です。日焼け止めの使用は真夏の間だけと思っていませんか。ここボストンも、冬の寒さが厳しい毎日です。紫外線はその波長によって、UVA、UVB、UVCと種類があります。その中で、冬でも気をつけたいのがUVAです。UVAは冬でも減らないからです。UVAは皮膚の色素を増加させるうえ、弾性線維にダメージを与えてシミやシワの原因を作ります。

基本的に紫外線による皮膚へのダメージは、「紫外線の強さ×紫外線を浴びた時間」で決まります。冬の弱い紫外線量でも、長い時間浴びてしまえばトータルで夏よりも紫外線量が多い場合があるのです。スキーなどのウィンタースポーツを趣味とする人、降雪量の多い地域に住む人は、より注意が必要です。雪の照り返しは80%と、砂浜やコンクリート、アスファルトなどと比べてとても強いからです。

日焼け止めの使用は紫外線対策の要ですから、冬でも日焼け止めが有効です。紫外線を浴びる15分前には塗り終えておくこと、2時間置きに塗り直すことがポイントです。アメリカ皮膚科学会では、午前10時から午後4時の日差しの強い時間帯に強い紫外線を避けること、耐水性の日焼け止めを使用することを推奨しています。また、冬の紫外線対策としては、マフラーや帽子などで防御すること、ビタミンCの多い食べ物を摂取することなども大切です。ただし、ビタミンCの取り過ぎには注意してください。体の中のビタミンCが増えすぎると活性酸素が生じ、それが肌を傷つけるからです。

つい最近、連日紫外線を浴びるよりも、2日に1度紫外線を浴びる方がより日焼けすると、権威ある学術誌で指摘されました。普通に考えれば、連日紫外線を浴びる方が強い日焼けを生じさせることが容易に想像できますので、非常に興味深い研究成果であり、日焼けが皮膚に与える影響にはまだまだ未知な謎があるのだと感じます。

実は、肌に対する光のリスクは屋内にも潜んでいます。それがブルーライトであり、今回この話もしておきたく思いました。ブルーライトは目に見える可視光線で、強いエネルギーを持っている青色光です。皮膚の細胞に影響を与え、シミやくすみの原因となります。パソコンやスマホのLED光あるいはLED照明などには、ブルーライトが多く含まれています。パソコンやスマホからなるべく距離を置く、防御するフィルムを画面に貼るなどの対策をおすすめします。

また、このブルーライトは睡眠に影響することも分かっています。夜寝る前に読書を習慣としている人がいると思いますが、ブルーライトは体内時計を狂わせます。最近の研究成果によれば、寝る前に電子書籍で読書をしていた人たちは、紙媒体で読書をしていた人たちと比べて血液中の睡眠ホルモンであるメラトニンの低下が認められ、睡眠の質の低下が確認されています。ですので、寝る前の読書には紙媒体がおすすめです。良質な睡眠をとることは、美肌対策でも重要です。

小川徹
皮膚科専門医。アメリカ皮膚科学会会員。ハーバード大学マサチューセッツ総合病院客員研究員。元ロンドン大学セントトーマス病院客員研究員。早稲田大学招聘研究員。元慶應義塾大学研究員。医学博士、MBA、公共政策の修士号を持つ。

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