第69回 APをめぐる攻防

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

高校も3年目になると「AP」クラスなるものが登場する。APとはAdvanced Placementの頭文字を取ったもので、通常の高校で教える教科よりも、アカデミックレベルが高い学習内容になる。

今年の秋でジュニアに進級するニナは、事前の科目登録でAP化学、AP米国史、AP芸術史を申請した。ハードルが高い内容のため、申請のガイドラインは、その科目でB以上の成績を収めていること、だそうだ。頑張る生徒の中には、APを4つも5つも取るケースもあるとか。ちなみに、ニナは英語の教師に「AP英語をぜひ申請するように」と勧められ続けている。「ニナなら大丈夫だから選択しなさい」と最初に言われた時は「考えておきます」と返答。しかし、実際に申請しなかったと分かると英語教師は「今からでも遅くはない。申請しなさい」と言ってきた。ニナは「はい、考えておきます」と再度、言葉を濁して、結局、申請はしなかった。

慎重派のニナに言わせると「APは3つで十分。欲張って4つ取って、テストに受からなかったら困る」というのが固辞の根拠。そう、APコースを取った生徒は、最後にAPテストを受験する。そして、5点満点の3点以上を取ると大学の単位にもカウントされるのだ。

ではなぜ、そもそもAPが存在するのか? その理由は以下の通り。通常の科目では飽き足らない生徒に挑戦の機会を与えるため。APコースを履修し、APテストに合格したことを大学のアプリケーションに記入することで「WOW」ファクターを増やすため(ボランティアの時間、部活での活動成績などと同様の「WOW」ファクターとなる)。大学レベルの内容を高校時代に学ぶことで、大学での学習に備えるため。前述のように3点以上を取り、大学の単位を取得するため。これにより、大学で取得する単位数をセーブでき、学費を節約できる。さらに全米の大学のうち、APコース履修の有無を奨学金の指標にするのは実に31%に上るそうだ。つまり、APを履修することで、奨学金を受給しやすくなるといえる。

大学進学が有利に

APのクラスがどれだけ難しいかは、正直なところそれぞれの高校や教える教師によって異なるようだ。大学レベルの内容とはいっても大学から講師が来るわけではなく、通常の科目を教える高校教師が受け持つからだ。ただしAPテストは全米共通で、合格率の平均は60〜70%。10人のうち6、7人は合格できると見るか、10人のうち2、3人は落ちてしまうと見るかは人によって分かれるところだろう。

また、科目によってAPテストの合格率には差がある。2017年5月に実施された試験では、中国語は92%が合格したが、物理学の合格率は41.9%だった。ニナが選択する化学、米国史、芸術史の合格率はそれぞれ52%、51%、61%とほぼ2人に1人の合格。これはなかなか厳しそうだ。

ニナになぜその3つを選択したのかを聞くと、「どれも楽しんで勉強できそうだから」と答えた。「AP英語、先生に勧められたんだったら取った方がいいんじゃないの?」と私が再度プッシュすると、「英語のAPテストでは、1時間に作文を3つも書かないといけないの。そんな短い時間にクオリティの高い文章は書けない」と言う。私はさらに「でも大学に行くのに有利になるんだからチャレンジすればいいじゃない」と言ってみた。するとニナは「大学に行くことも一つの目標だけど、勉強自体を楽しみたい。無理はしたくない」と、どこまでもマイペースだ。それでも親として諦めきれない私は「でも、まだAP英語を申請するチャンスは残っているんでしょ? もう少し考えてみたら?」とさりげなく、しかし、しつこく訴えたのだった。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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