
The Tea House
1年半のコロナ禍を経て、ようやく以前の人間らしい生活が再開した。この時を待ち望んでいた。屋外に繰り出す喜びに溢れた人々の姿。解放感に浸る人間の姿はどんな時でも、どんな人の上にでも、感動的である。生きていて良かった。私たちは多種多様な生命共同体の一員として喜びを共有した時、一人で味わうのとは別次元の喜びを感じる。夏の爽やかな午後、早速友人を誘い、本格的なアフタヌーンティーを楽しんだ。
ロサンゼルスの南、San Juan Capistrano に位置するMissionは、毎年3月19日にアルゼンチンからツバメの大群が必ず帰ってくることで有名だ。ここは小さな街だが、汽車も停まるので人気のスポットだ。ここに民家を改造した素朴で家庭的なThe Tea House がある。普通の家の各部屋にいくつかのテーブルがあるという店構え。イギリスの家庭でお茶をいただく雰囲気を味わえる。部屋の壁にはありとあらゆる美しい食器が飾られ、やさしい色合いと繊細な柄は見ていて飽きない。コースになっていて、自分の好みの紅茶がきれいなポットに入り熱々の状態で供される。香りをかぎ、紅茶を口に含む。なんともいえない香りが広がり、蓄積された疲れがゆっくりと溶きほぐされる。これこそがアフタヌーンティーの醍醐味だ。大きな自家製スコーンは外はカリカリ、中はふんわり。添えられたジャムとバターもおいしい。これだけでお腹が一杯だが、その後にフレッシュなサラダ、スープ、それから6種類のサンドイッチと続く。どれもがまろやかで、自家製の誇りをかけた味だ。素朴な家庭料理の癒やしがある。友人と1年半の互いの忍耐を慰め合う。会話こそが、このひとときの主役だ。
家族連れ、恋人同士、親子、それからたった一人でゆっくりと贅沢な時間を楽しんでいる老婦人の姿もあった。一人静かに、紅茶を楽しむ姿は感動的でさえあった。
また先日は、LA下町に開発された新しいArt DistrictにあるHauser & Wirth に絵を観に行った。この辺りは以前は荒れた倉庫街だったが、再開発が始まり、天井の高い素晴らしいギャラリー街が出現した。現代的でカッコ良い街には若者たちが寄ってくる。千差万別の個性と活力に溢れ、触れば切れるようなシャープさも振りまく。好き勝手な格好で自分の特性を誰に遠慮することなく発散している。いいよいいよ、若者だもの。
ミシェル・オバマの肖像画家として選ばれたAmy Sheraldの絵を観るのが目的。アフリカンアメリカンの肌の色がとてもきれい。原色に近いカラフルな色使いにもかかわらず、少し抑えられたトーンが静かな雰囲気を与える。人物たちは皆ある種の品があり、好きな画家だ。
たくさんの絵の中で、たった1枚で良い。忘れられない絵、胸に残る絵に出会いたい。気に入った絵を部屋に飾り、毎日その絵と語り合う。朝はおはようと言い、夜は仕事からクタクタになって帰宅した時、お疲れ様と声をかけてくれる絵。その絵をちらりと観て、今日も一所懸命生きて良かったですと、その絵に報告する。そんな絵が欲しい。
他の日にはLACMAに奈良美智展を観に行った。彼の40年の画業の総まとめに近い規模の個展だ。この個展は昨年はコロナ勃発のために延期され、今年に制約下での開催となった。LACMAでの晴れの舞台の延期に奈良はインタビューの動画で、「2011年の東日本大震災を在住の東北で経験し、そして世界を巻き込んだコロナ危機に直面。どうしようもない事態に、自分には何ができるか」と真摯に問うていた。素朴で誠実、答えを見つけようとひたすら描き続ける人。こんな人がいてくれてホッとする。何も奇をてらわない。自分のできることをやり続けるアーティスト。
彼は助手を一切使わずすべてを一人で制作するから、よくもこれだけのものを描いてきたと膨大な展示作品数に感慨深げだった。実にすごい量だ。頭でっかちで、こちらを睨んでいる少女の絵が有名だが、そのキャラクターの背後には膨大な量の油絵、ドローイング、彫刻、陶器がある。封筒の裏、カートンボックスの裏、コピー紙、何にでも描きまくる。画家という仕事に一生をかけた人間の本気度が、その質と量からしみじみと伝わってくる。村上隆と対極的な画家だが、彼のことを「彼とは真逆な感じなんだけれども、めっちゃ隣部屋に住んでる気がする」と語っている。
日本男子、頑張ってる。だから日本女子も頑張ろう。街に出ようよ。
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