家族がいると上乗せ支給される「加給年金」について

文&写真/蓑田透(Text and photo by Toru Minoda)

日本の年金制度では、年金支給開始年齢(60~65歳)に達すると受給権者に老齢(退職)年金が支給されます。その際、受給者に家族がいると、加給年金が上乗せされる場合があります。この制度の目的は、老後年金受給者になったにもかかわらず扶養すべき家族がいる場合の救済であり、米国年金の家族年金と同様の制度です。

1.受給要件

(1)厚生年金に20年以上加入していること
もともと厚生年金は労働者(サラリーマン)世帯を保障するための制度であることから、その家族の保障も一部対象に含まれています。加給年金は、そうした背景から厚生年金に適用される制度となります。国民年金は、国民一人ひとりの生活の保障という観点から、加給年金の対象にはなりません。したがって、厚生年金だけの加入期間が20年に達していなければ、たとえ国民年金加入期間との合計が20年以上であっても対象にはなりません。

米国居住者の方は20年未満でも支給対象に

米国など日本が社会保障協定を締結している国の居住者の場合、日本の厚生年金と居住国の年金加入期間の通算(合計)が20年あれば、加給年金を受給することができます。米国居住者であれば、米国年金加入期間(就労しSocial Security Taxを支払っていた期間)を厚生年金加入期間と通算することができます。

(2)加給年金の対象となる家族がいること
厚生年金の受給開始年齢である65歳時において、年下の配偶者(※1)、または18歳に達した日以後から最初の3月31日までの期間に該当する子がいる場合に適用されます。該当する配偶者と子が両方いれば、それぞれの分が上乗せされます。国籍は問いませんので、日本国籍以外の配偶者や子も対象となります。ただし次の場合は対象家族とはなりません。

配偶者、子の年収が850万円以上の場合
加給年金は扶養すべき家族がいる場合の救済であることから、家族自身に一定額以上の収入があれば支給されません。
配偶者自身が厚生年金に20年以上加入している場合
配偶者自身も一定額以上の年金収入があるので対象になりません。
65歳時以降に婚姻した場合
配偶者については、受給開始年齢である65歳時点ですでに婚姻している必要があります。

2.受給額~最大年間約39万円

加給年金額(2018年度)ですが、厚生年金に20年以上加入していた場合で、配偶者がいると38万9800円、子がいると2人目まで各22万4300円となります。

海外居住者で外国年金との通算が20年以上あることで受給できる場合、受給額は実際の厚生年金加入期間により按分された額となります。たとえば厚生年金に8年だけ加入し、その後米国で15年就労しSocial Securityに加入していた受給者に配偶者がいた場合、加給年金の額は「38万9800円×8年/20年=15万5920円」となります。

3.受給できる期間

受給期間は、65歳時から(年下の)配偶者の年金受給開始時期(65歳)までの期間となります。配偶者が65歳になると加給年金はなくなりますが、もし配偶者自身も基礎年金受給者であれば、代わって配偶者に振替加算が生涯支給されます(下記4.その他参照)。

4.その他

(1)振替加算
加給年金は受給の対象となる配偶者が65歳になるとなくなりますが、配偶者自身が65歳からの基礎年金の受給者である場合、加給年金に代わって振替加算が配偶者に上乗せ支給されます。金額は加給年金より少ない(配偶者の生年月日により金額は異なります)ですが、生涯に渡って支給されるので大変お得です。

配偶者が(年下ではなく)受給者の年齢と同じかそれ以上の場合、原則加給年金の対象にはなりませんが、振替加算の対象にはなります。たとえば、受給者が65歳の時点で配偶者が67歳であれば、その時点から配偶者は振替加算の対象となります。

(2)繰り下げ請求制度との併用
65歳から受給する老齢厚生年金は、繰り下げ請求することで66~70歳から増額された年金を受給することができますが、加給年金は繰り下げ請求の対象にはなりません。したがって、厚生年金を繰り下げ請求しても増額されず、結果として繰り下げた期間の加給年金は失効(もらい損)になってしまうので注意が必要です。

なお、繰り下げ請求は厚生年金と基礎(国民)年金を別々に行うことができます。そこで加給年金を受給する場合、厚生年金は繰り下げ請求せず、基礎年金だけを繰り下げ請求することもできます。

加給年金・振替加算に関する日本年金機構のウェブサイト
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kakyu-hurikae/20150401.html

※1 配偶者の年齢について
昭和24年4月1日以前生まれの方の加給年金支給開始年齢は、64歳以下となります。その場合、配偶者が年上でも65歳未満であれば加給年金の支給対象となります。

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蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、介護・葬儀・相続など日本在住の老親のサポート)を行う。

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