日本の遺族年金~将来の請求手続きのために準備しておくこと〜

文&写真/蓑田透(Text and photo by Toru Minoda)

米国居住者が以前、日本の公的年金(厚生年金、国民年金、共済年金など)に加入していたことがあれば、たとえ短期間の加入であっても老齢年金を受給でき、同様に遺族年金も受給することができます。ただし、遺族年金の請求の場合は老齢年金の請求に比べると提出書類がやや複雑で、受給権があったとしても書類が揃わずに受給できなかったというケースがあります。そこで今回は遺族年金請求のため、今のうちからできることを紹介します。

遺族年金については、2016年12月28日の当コラムでも概要を紹介しているので、併せて参考にしてください。

1.遺族年金の概要

遺族年金は被保険者(働いて保険料を支払い、まだ年金を受給していない人)、または年金受給者が死亡した場合、その者に生計を維持されていた遺族に支給されます。遺族基礎年金と遺族厚生年金(遺族共済年金)の2種類があります。

遺族基礎年金は18歳未満の子がいる場合にのみ支給され、遺族厚生年金は配偶者または18歳未満の子がいる場合に支給されます(配偶者、子がいなければ父母、孫、祖父母も遺族になる場合あり。ただし妻、子以外は55歳以上に限る)。

年金額ですが、遺族基礎年金が年間約78万円、遺族厚生年金は死亡者が受給していた(受給する予定だった)老齢厚生年金の4分の3に相当する金額となります(一部加算額あり)。

2.請求手続き

請求手続きは、被保険者(年金加入者本人)または年金受給者が死亡した後に行います。手続きは日米社会保障協定により米国の年金事務所の窓口でもできますが、担当者が日本の年金についての知識がなくスムーズに進まないかもしれません。できれば来日の機会があれば、その際に最寄りの年金事務所で行うか、日本に住む親族または代理人にお願いすることをおすすめします。

3.提出書類と注意点

以下は最低限必要な提出書類になります。このほかにも死亡者、請求者(遺族)の状況によって追加で必要となる書類もあります。

①遺族年金請求書(年金事務所にあり。またはインターネットからダウンロード可能)
②請求者の在留証明書(外国籍の場合はNotary発行のものでも可)
③配偶者、子であったことの証明書(日本国籍なら戸籍謄本、外国籍なら結婚証明書など)
④死亡者と請求者が生計同一(同居)であったことが確認できる書類
⑤請求者(遺族)の収入が確認できる書類のコピー
(確定申告書Form1040など。子が高校生以下の場合は不要だが学生証のコピーが必要)
⑥死亡診断書コピー
⑦年金振込先金融機関の通帳コピー(小切手、銀行のステートメントのコピーも可)

(日本以外の)海外在住者の場合、上記書類の中でも④について苦労されているようです。日本在住者の場合は住民票を提出することで生計同一とみなされるのですが、海外在住者の場合は住民票の代わりに提出する③在留証明書だけでは不十分なためです。具体的にどういった書類でよいのか、直接年金事務所へ確認するのがおすすめです。

また老齢年金の受給資格要件はもともと年金加入期間25年でしたが、2017年8月に10年に短縮されました。しかし、遺族年金については従来通り25年のままですのでご注意ください(米国在住者は日米年金通算が25年でも可)。

4.今のうちから準備しておくこと

たとえば重い病気で医師から余命宣告を受けているような場合であれば、残された遺族に財産を含め年金の情報も事前に伝えておくことができますが、そうでない場合、不慮の事故による死亡というケースも想定されます。したがって早い時期に家族に次のことを伝えておきましょう。

・自分が年金の被保険者または年金の受給者であること。また自分が死亡した場合は、残された家族が遺族年金を受給できるということ(事前に確認する必要あり)
・遺族年金の請求時の連絡先(日本年金機構、共済組合など)
・手続き時に必要となる書類についての入手方法など。たとえば戸籍謄本であれば、本籍地のある日本の市町村役場への請求方法。また年金に関する書類や毎年の確定申告書であれば過去の分も廃棄せずにまとめて所定の場所へ保管しておきます

5.遺族となる配偶者が外国籍で日本語を話さない場合

請求手続きの際はまず保険者(日本年金機構または共済組合)に国際電話をかけ、英語で話せるかどうか確認するようにしてみてください。現在電話における翻訳サービスは提供されていませんが、運良く英語を話せるオペレータが出た場合に対応できる可能性があります(可能性は低いですが)。または米国Social Security Officeに電話するか、最寄り事務所へ出向いて日本の遺族年金について確認するようにしてみてください。対応してくれるかもしれません。

上記いずれの方法でも請求手続きを行うことができない場合は、専門業者(日本の社会保険労務士)を探して代行請求手続きを依頼してみてください。なお、弊社でも英語での対応は可能です。

<参考>電話連絡先
・日本年金機構(厚生年金、国民年金):81-3-6700-1165(81は日本国番号)
・共済組合(共済年金):公務員、学校関係者の所属機関ごとに異なります。個別にご確認ください。

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、成年後見など日本在住の老親のサポート)を行う。

●豊富な実績に基づくていねいなサポートで
ひっきりなしに持ち込まれるお客様からの国際手続きに関する多種多様なご依頼、ご相談(お悩み)を断り切れず休日返上で対応しているうちに、気がつけば(年金、日本帰国といった当初の事業以外の)あらゆる分野のノウハウを備えたオールラウンドコンサルタントに。当社で対応できないケースでも、的確な解決方法や提携先の他分野専門家を紹介します。

ホームページ:ライフメイツ(ライフメイツ社会保険労務士事務所)
 日本帰国・年金・国際手続き相談室
 企業経営改善・助成金相談センター
 障害年金相談室(提携先)

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  2. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  3. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  4. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
  5. 私たちは習慣や文化の違いから思わぬトラブルに巻き込まれることがあり、当事務所も多種多様なお...
  6. カナダの大西洋側、ニューファンドランド島の北端に位置するランス·オー·メドー国定史跡は、ヴァイキン...
  7. 2023年12月8日

    アドベンチャー
    山の中の野花 今、私たちは歴史上経験したことのないチャレンジに遭遇している。一つは地球温暖化...
  8. 2023年12月6日

    再度、留学のススメ
    名古屋駅でホストファミリーと涙の別れ(写真提供:名古屋市) 以前に、たとえ短期であっても海外...
ページ上部へ戻る