海外教育Navi 第98回
〜乳幼児の日本語の育み方〜〈後編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。


Q.周りに日本人がいない環境で乳幼児を育てています。日本語をどう育んでいくか不安です。

前回のコラムでは、乳幼児の言葉の発達についてお話ししました(前回記事へ)。今回は、母語を育む絵本の重要性についてお話しします。

多様な遊び体験と「絵本タイム」

「周りに日本人がいない環境での子育てです」とご質問にありましたが、その不安感をまず少しでも鎮めていただきたく回り道をしました。現代の子育ては人類の太古と比べても、不安感が強いことは至極当然なことと想像できます。

また、幼児期のことばの習得は、発達全体から考える必要があるという先達のメッセージもあるいは不安と冷静に向き合える助けとなるかもしれません。しかし、コロナワクチン効果を先取りし終息後の世界を模索する議論が活発化しています。

従来の子育てと、これからは何が違ってくるのでしょうか。

変わらない「根っこ」は何でしょう。乳幼児期に育みたいことばの基礎やアタッチメント(母子間の愛情)、自己肯定感や多様性の尊重といった「根っこ」が揺らぐとは思えないのですが、いかがでしょうか。

私自身、日本で子育てをしていたときは家の前が公園だったので、隣家の小学生のお兄さんが公園で遊んでいるときは、年長児の我が子をすっかりお任せして遊んでもらっていました。ところがニューヨークに渡った直後、散歩の途中におばあさんに呼び止められ、子どもは自分の前を歩かせるようにと注意されました。誘拐が多いから後ろを歩かせるのは危険だと。

これには仰天。外で遊べないのは困りますので、すぐにカブスカウトに参加させました。

自由に虫捕りをして図鑑を広げていた体験も制限され、自然への関心の場も広がりません。遊びから得られる多くのことばも限られることになります。

子どもは五感を丸ごと働かせ体験から体でことばを学びます。

思考力というのは知識を使って推論し、問題を解決する力で、それを可能にするのが自分の力でたくさん覚えたことばだと今井むつみさんは言います。幼児期のことば力が学力を決め、思考力と学力を育てるのが絵本の読みきかせだと、この言語発達・認知発達の専門家はエビデンスを土台に明言しています。

多様な事物への好奇心からことばを発して、さまざまな体験をしなければ、五感を豊かにすることはできないし思考力も育たないでしょう。

「センス・オブ・ワンダー」という神秘さや不思議さに目を見張る感性を新鮮に保ち子どもといっしょに楽しむ「ひとり」の大人の存在。その重要性をR.カーソンは書き残しています。

子どもと共に日本語を豊かにする生活体験にはほかに「絵本タイム」があります。

海外子女教育振興財団では『母語を育てるということ』というパンフレットや幼児コースの絵本の配本などで母語習得の支援をしてきました。さらに2020年度から0歳児を対象とした赤ちゃん向けの絵本をお届けするコースを新設しています。グローバル化を見据え、近年の乳幼児教育を重視する世界的な流れと赤ちゃんの潜在的な可能性を研究する認知科学の成果を踏まえて選書をしました。ホームページでご高覧ください。
https://www.joes.or.jp/kojin/tsushin/yoji

育児は育自・教育は共育

ポスト・コロナ、ウィズ・コロナとかまびすしい現在、子どもの教育、生涯学習のみならず教育の重要性が問われています。この問題提起はすべての人に共に考えようと連帯を呼びかけているようにも感じています。AIやグローバル化が進む社会で、「生きる軸」の1つに〈日本語を母語にする〉と定めたら、お子さんに寄り添い親子で共にみずみずしい日本語の学びを日々続けていくことが大切ではないかと、私自身も模索しています。

重要なご質問に最初のきざはしを置く程度のお答になってしまいました。

最後に、育児と共育を実践し『絵本タイム』を楽しんでいらっしゃるある父親から最近寄せられた投稿をお届けします。

「……日本語の絵本配本により、子どもと日本語で触れ合える瞬間は非常に有意義にて助かっております。生活していると、日本語、英語、○○語のちゃんぽんにて会話している自分がおり、絵本を通して日本語に戻ることができております」

<参考>
*1『言葉はなぜ生まれたのか』岡ノ谷一夫著(文藝春秋)
*2『「サル化」する人間社会』山際寿一(集英社)
*3『ことばの贈りもの』松岡享子(東京子ども図書館)
*4『子どもとことば』岡本夏木(岩波新書)
*5『親子で育てる ことば力と思考力』今井むつみ(筑摩書房)
〇『内臓とこころ』三木成夫(河出文庫)
〇『魔法の読みきかせ』ジム・トレリース(筑摩書房)
〇『赤ちゃんの発達とアタッチメント』遠藤利彦(ひとなる書房)
今回の相談員
児童文学者
宮地 敏子

ニューヨーク補習授業校教諭、洗足学園短期大学幼児教育科教授、デリー大学東アジア研究科講師を経て、現在は国際幼児教育学会理事。海外子女教育振興財団の通信教育「幼児コース」の監修を担当。翻訳絵本に『やまあらしぼうやのクリスマス』『ぞうのマハギリ』、共著で花鳥風月をテーマにした友禅染絵本『はなともだち』『あいうえおつきさま』などがある。
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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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