第81回 日本語の継承

2019年10月、ロサンゼルスと名古屋の姉妹都市締結60周年イベント「名古屋デー」で折り紙指導を担当したニナ(右)とUCLAで日本語を学ぶ学生

今回は「アメリカの学校」ではなく、「アメリカで育つ二世の子どもたちの日本語教育」というテーマで書いていきたい。それは、子どもたちの日本語教育の重要さについて改めて確認する機会が最近2度あったからだ。

1度目は、2019年秋に全米日系人博物館の創設時の館長で、現在は米日カウンシルのプレジデントを務めるアイリーン・ヒラノ・イノウエさんに取材したこと。11年前、アイリーンさんを中心にロサンゼルスの日系人のリーダーたちによって立ち上げられた米日カウンシルは、人と人の交流を通じて日米関係を良好に保つことを目的にした団体だ。「日系人の中には自分の日本のルーツを知らない人も少なくない。そうすると日本への関心は薄れていく。日米関係をつなぐには、人と人との交流がカギになる。今、日系人と日本人とが直接交流できるプログラムを作らなければ手遅れになる」と、アイリーンさんは同団体の設立動機を話してくれた。彼女の志と行動力はさすがに日系人のリーダーとしてふさわしいと感銘を受ける一方で、日系二世の子どもたちの母である私としては、一つ思うところがあった。それは「日系人と日本人の間の交流に必要なのは言葉、日本語ではないか」ということだ。

もちろん、アメリカに暮らす私たち日本から来た日本人は、仕事や生活のために英語を習得する必要がある。それでは、二世たちは英語のみで十分かというと、それには賛成できない。日本語を日本生まれの親からや日本語学校で学ぶことで、日本への親近感は増すはずだし、日本人と接する際にもコミュニケーションに困ることがなくなる。

きっかけの二つ目は、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の日本語継承教育についての研究の一環で、「家庭での日本語教育」について取材を受けたこと。普段は自分が取材をする側だが、今回は珍しく取材を受ける側に回った。その取材のなかで、22歳の息子・ノア(今は日本で働いている)と17歳の娘・ニナがアメリカの現地校に通いながら成長する過程で、家庭で日本語を話すように励まし、日本にもほぼ毎年連れて行き、日本語学校や武道を通じて日本の文化にも親しませてきた経験を話した。

言語は財産

なぜそこまで熱心に日本語を子どもたちに習得させようとしたのか、という質問に対して、「アメリカ生まれであるといっても日本人というアイデンティティは忘れてほしくない。そして、日本人としての芯は日本語に宿っているから、習得するのは当然のこと」と答えた自分の言葉の強さに、自分でも驚いた。

親が日本人なら子どもも日本語を自然に習得するのでは、と思うかもしれないが、それが意外とそうでもない。私の周囲には両親ともに日本人なのに、日本語の聞き取りはできるが話せない二世の子どもたちが少なくない。こちらが日本語で話しかけても英語で返事が返ってくる。そういう子どもの親たちは、子どもが英語で話すようになっても特に日本語で話すことを求めない。そうすると親は日本語で、子どもは英語という家庭内の言語断絶が進んでいく。

3歳まで同じ日本人のベビーシッターにお世話になったノアの幼馴染は、当時は日本語が上手だったのに、大学生になった現在はほとんど日本語を話さない。それは家庭での教育方針がそれぞれだから、良し悪しの問題ではないのだけど、私には「もったいない」と思える。他方、別の知り合いのお嬢さんは、アメリカ人の父親とは英語、日本人の母親とは日本語で会話をすることで立派なバイリンガルに育った。
さて、今は日本で生活しているノアは、ウェブデザインの会社で働いている。ウェブサイトの英語版の作成が必要な時は彼が英訳しているようだ。国と国をつないだり、仕事で役立ったりする言語は、とても大切な財産なのだ。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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