日本のカレーライスをアメリカの国民食に
チャンピオンカレー

New Business Close Up
アメリカで新たな事業を手がける人物をクローズアップするインタビューシリーズ。

ステンレス製のお皿にライスが隠れるようにルーを全体にかけ、その上にトンカツ、そして付け合わせにはキャベツの千切り。ドロッとしていて濃厚で深い旨みのあるこのカレーライスは「金沢カレー」の名で知られ、金沢市を中心に石川県のカレーライス店で提供される人気料理だ。この独自の特徴を持つ金沢カレーの元祖として知られるのが、「チャンカレ」の名で親しまれている金沢の老舗カレーチェーン「チャンピオンカレー」。

2020年6月30日、アメリカ・カリフォルニア州のロングビーチの地に、満を持してチャンピオンカレーが初の海外進出を果たした。続いて8月15日にはロサンゼルスのリトルトーキョーで旗艦店となる「Champion’s Curry Little Tokyo」をオープンし、2店舗体制でアメリカでの事業展開をスタートする。今回は、同社の代表取締役社長、南恵太さんに話を聞いた。

洋食屋から始まった独自のカレーライス

同社3代目となる代表取締役社長、南恵太さん

現在の金沢カレーと呼ばれるカレーライスの元祖レシピを考案したのは、私の祖父であり、チャンピオンカレーの創業者でもある田中吉和です。もともとレストランのシェフとして勤務していた祖父は、1961年に独立して金沢に洋食店を開業しました。祖父は洋食らしく、通常のカレーライスよりもあえて深い味わいのレシピを作りました。この独特なカレーのレシピは祖父のかつてのシェフ仲間たちの間に広まり、1960年代から石川県内では同様のカレーを扱うお店が徐々に増えていきました。そして、2010年頃には「金沢カレー」として親しまれるようになったのです。

日本の洋食ブームは必ず来る

うちは小さな世帯の会社なので、単独で海外進出というのはあまりリアリティがありませんでした。いつかは出店したいけど、まずは国内事業を頑張らないと、と思っていたんですね。そんな時に海外進出のきっかけとなったのが、現在、米国子会社の共同経営者でオペレーションを担当してもらっている髙橋誉也さんとの出会いでした。サンタモニカにある有名な寿司店でシェフをしていた彼は、ファインダイニング系とは異なる、もっとカジュアルでおもしろい日本食をアメリカに持って来たいとの思いでネタを探しており、そんな時に知り会いを通して紹介してもらいました。

彼には「今後、日本の洋食は必ずアメリカでブームが来る」という見立てがありました。日本の洋食っておもしろくて、たとえばトンカツのディープフライという調理法は、西洋のカツレツを基本にしつつ日本の食文化の中でアレンジされて発展したものなんですね。西洋から見ると、日本の洋食にはどこか懐かしさや親しみがあり、それでいて新しい。だからこそアメリカでも受け入れられるだろうとの考えがあり、洋食というカテゴリで良いものがないかと探していたそうです。そこで「カレーってまさにそれだよね」という話になりました。彼はアメリカで20年間シェフの経験があり、調理技術やメニューの構築技術も高く信頼性を強く感じたので、パートナーとしてアメリカへの進出を決めました。

嗜好に合わせたメニューを改良

アメリカの店舗で提供しているカレーは、日本国内のものとはちょっと違います。当初は日本で作った商品を輸出して倉庫で保管すれば良いと思っていたのですが、一部の食材が検疫で通りにくいんですね。日本からの安定供給は難しいので、現地で作らないと、ということになりました。ただ、まったく同じ食材は手に入らないので、アメリカで手に入るものでレシピに忠実な味を作る努力をしました。

1番大きな違いというと、アメリカはNon MSGのメニューにしていることです。化学調味料って、名称は体に悪そうだけど実際は悪いものではないじゃないですか。それでもアメリカでは印象があまり良くないので、化学調味料を使わずに旨みをいかに再現するかを試行錯誤しました。

また、日本にはないメニューの一つに、カツサンドとカレーディップソースというものがあります。これは、テイクアウトした時に車の中でも食べやすいものが一つあっても良いのではないか、ということで作りました。日本人にとって1番親しみのある形態はカレーライスですが、カレーってなんだろうと考えた時に、基本は「ソース」なんですよね。使い方のバリエーションは無限にあるので、民族や地域、国によって素材にアレンジを加えてみても全然良いよね、という話になりました。ちなみに、サンドのパンはブリオッシュを使っており、口の中で溶けていくように柔らかいです。

 

アメリカでのビジネスは
日本以上に人対人

日本からアメリカに進出を試みた企業は無数にあると思うのですが、サンプリングや見積もりだけ取ってフェイドアウトしてしまう会社が結構多いと思うんです。人対人の信頼関係を築いていくというよりは、あくまでビジネススタンスでやりとりをする日本人が多かったのではないかと。日本だと条件交渉をして検討したり、相みつを取って「やっぱりごめんなさい」で終わったりすることがよくあるじゃないですか。アメリカのメーカーや不動産業者とやりとりをしていて、「本当に進出するの? 見積もりやサンプルを作らされて終わるんじゃないの?」と最初は怪しがられました。本当にやる気があるのか信用してもらうプロセスが独特でおもしろかったです。

日本はお酒を飲んで打ち解けるのが常套手段ですが、そうなるとなあなあになる部分があるじゃないですか。アメリカでの取引先との話の進め方は、条件を腹に抱えながら最初にどう出るか、どうやって手を握るかを試される。フレンドリーに接しつつ、どれだけ親しくなってもビジネスの話は一定の距離を保ち、しっかりきっちり話を固めていく。根本的には同じ人間なので見積もりがあり、契約があり、信頼関係があってのビジネスという点では同じだと思うのですが、その関係になるまでいかに進めていくか、距離の取り方が日本とは違うと感じました。

出店の手応え、今後の展望

現在アメリカでは、旗艦店であるリトルトーキョーと、ロングビーチにある「Steel Craft」という野外フードコートの2店舗をオープンしています。Steel Craftでのオープンは偶然が重なったこともありました。チャンピオンカレーはファスト・フード寄りのスタイルですが、「ファスト・カジュアル」と呼ばれるちょっと高質な立ち位置を狙っているので、その点ではSteel Craftのコンセプトやラインナップに合致していてとても良いと思いました。

リトルトーキョー店は現在オープンして数日ですが、思った以上の反応をもらっており、売り上げも当初予想していたよりもはるかに上を行っている状態です。SNSにも画像をバシバシ載せてもらっており、嬉しい限りです。逆にオペレーションが回りきらなかったり、ロジスティクスの供給を改善する必要があったりと反省点も見えてきました。

今後の長期的な目標でいうと、カレーをアメリカの国民食のような存在にしたいと思っています。メキシカンのブリトーのように、アメリカのどこの地域でも当たり前にあって日常的に食べられるものにしたいですね。そこに至るまでにはある程度の店舗数は必要だと感じているので、短期的な目標としては積極的にお店を出していきたいです。幸運なことに、今いろいろなところからお話をいただいていて。ただ、店舗をいっぱい出せば良いというものではないとも思います。アメリカに進出を決めた時もそうでしたが、あくまで人ありきの話で、出店してほしいという話があればそれを優先して進めたいし、受け入れられる素地があるのならそれに応えていきたいです。

読者に一言

アメリカでの生活は日本と同じようにはいかない部分もあるので、社会に適応するためにいろいろと心を砕かれているだろうと思います。そんな中で、日本食としてのカレーがあって、ちょっとホッとするような立ち位置にチャンピオンカレーがなれれば良いと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします!

PROFILE
南恵太
カリフォルニア⼤サンディエゴ校経済学部を卒業後、2009年 に⼤和総研に⼊社。東京都内の外⾷企業などを経て2013 年1⽉より株式会社チャンピオンカレーに⼊社。同年7⽉から常務、16年10⽉から現職。 創業家の3代⽬。

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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