海外教育Navi 第59回
〜日本への帰国が決まった時、子どもの気持ちとどう向き合う?〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.帰国が決まりましたが、子どもは寮に入ってでも「現地に残りたい」と言います。どうしたらいいのでしょうか。

「帰国」を手放しでは喜べない子ども

意外に思われるかもしれませんが、帰国を告げたときに手放しで喜ぶ子どもはほとんどいません。口には出さないまでも多くの子どもが戸惑いを覚えるようです。
これは海外赴任を告げたときに行くのをいやがったときの心情と共通するものがあります。すなわち、新しく始まる環境は子どもにとって未知の世界であり、不安を感じさせるからなのです。

日本での生活経験の乏しい子どもが、親御さんの予想に反して「現地に残りたい」、「いまの学校に通い続けたい」等の気持ちを抱くのは自然なことです。なかには「寮に入ってでも残りたい」と言い張る子どももいます。

「帰国する」ことは子どもにとっては親御さんが考える以上に抵抗感があり、乗り越えるにはとてもエネルギーのいることなのです。気持ちの整理ができないまま帰国した場合には、編入学した学校になじめず不登校に陥ってしまうことさえあります。

では、帰国をいやがる子どもを前向きな気持ちで帰国させるにはどのように対応したらよいのでしょうか。

豊かな情報を正しく伝えよう!

出国や帰国を告げたときに前向きになれない子どもの気持ちは、新しく始まる環境のイメージを持てない「不安感」やいまの幸せな環境をなくしたくないという「友達への想い」や「学校への愛着心」に起因しています。しかし、このような気持ちを持つことは決して悪いことではありません。
なぜなら、見方を変えればそのような子どもは新しい環境に真剣に向き合い適応していこうとする「前向きな気持ち」を持っていることに加え、友達や先生との人間関係を構築できる「たくましい適応力」をも身につけているということだからです。

また、帰国への不安要素として「受験」を挙げる子どもも多くいますが、「帰国生受験」という方法もありますので、豊かな情報を正しく与えさえすれば不安は解消され、前向きな気持ちで帰国と向き合うことができるでしょう。

いずれの場合にも、まずは子どもの気持ちを共感的に聞きながら本心を見極めるところから始めることをお勧めします。そのうえで、帰国後の不安を取り除いていくことが大切です。

しかし、それでも「現地に残りたい」と言い張る子どもには、現地に残すという選択肢を含め子どもにとってよりよい道を探ってみることも必要です。

現実的な対応としては各学校段階で次のように考えてみてはいかがでしょうか。

家族のなかで育まれる小学生時代
基本的には家族のなかで育まれる環境を大事にしたい時期です。また、母語の育成にも重要な時期ですので、いっしょに帰国するという基本姿勢で子どもと向き合ってほしいと思います。

また、この時期の拒否反応には一過性の傾向が見られます。帰国後の学校のポジティブなイメージを具体的に持たせてあげれば気持ちが前向きになっていくことでしょう。なにより「日本の学校のよさ」を伝えてあげてほしいです。

また学習面の不安がある場合には、帰国生受け入れ校等もあるので心配がいらないことも伝えてあげましょう。可能であれば「体験入学」等を活用して、海外滞在中から日本の学校の様子を具体的にイメージさせておくことは、この段階の子どもにとっては大きな安心材料となることでしょう。

心が揺れる中学生時代

中学校の段階はまだ義務教育期間中ですので、帰国後は居住地の公立学校へ随時編入学できます。さらに、帰国生受け入れ校といわれる国公立や私立の学校でも「入学」だけでなく「編入学」での門戸も開いていますので、帰国生にとっては大きなアドバンテージと受け止めることもできます。

しかし、さまざまな学校段階のなかで最も子どもと慎重に向き合わなくてはいけないのが、この時期の帰国です。家族がいっしょに暮らす方が望ましい時期であることは小学校段階と同じですが、思春期特有の情緒の揺れがところどころに見られます。現地での友人との別離や帰国後の学校での新しい友達との出会いなど、多様な心の揺れを克服し適応するまでには一定の期間と努力を必要とします。

そのうえ、帰国時に受験が控えているような場合には大きなプレッシャーも感じることになります。

やはり、この段階で帰国する場合も基本的には情報をしっかり与え、日本の学校の様子や帰国生受験の現状を豊かにイメージさせることが大切でしょう。

また思春期という精神的に揺れる時期での帰国だからこそ、その後の学校生活への適応には家族の温かい見守りとサポートがいっそう必要となってきます。

基本的には家族と共に帰国する方向で子どもと向き合うことをお勧めしますが、たとえば次のような場合は短期間に限定したうえで母子だけでも現地に残ることも一考の価値があります。
・「9年生修了」の高校受験資格にかかわる場合
・現地でしかできない活動や習いごとを継続する場合

未来を展望する高校生時代
高校段階で帰国する場合にも編入学で帰国生を受け入れている学校は多数あります。ただし、大学受験を含め未来を展望しなくてはいけないのがこの時期の帰国です。

大学の帰国生入試では「現地の高校卒業」を受験資格要件にしている大学が多くあるので、大学受験が視野に入るような時期の帰国の場合には、現地に残った方が志望大学の選択肢が広がります。さらにこの場合には、滞在国の大学へ進学するという新たな選択肢も生まれます。

数カ月間現地に残れば現地校やインターナショナルスクールの12年生を修了できる場合には、「現地に残す」という選択も積極的に考えてよいでしょう。

特に高校段階では未来を展望したうえで帰国のタイミングを考えてみてください。

→「第60回 〜日本への帰国が決まった時、子どもの気持ちとどう向き合う?〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員

海外子女教育振興財団 教育相談員
平 彰夫

千葉県の公立小学校で教頭、校長を歴任。千葉県小学校長会理事、千葉県海外子女教育国際理解教育研究会副会長を経験。1998年より3年間、デュッセルドルフ日本人学校に教頭として赴任。この間、補習教室の教頭を兼任。2011年4月より海外子女教育振興財団の教育相談員。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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