2022年改正(予定 ※1)~日本の国民年金の繰上げ、繰下げ制度

昨年に続き1月8日に発出されたCovid-19による日本での緊急事態宣言は、2カ月経過した現在(3月12日時点)でも続いていますが、3月21日には解除の予定です。1月のピーク時から感染者数も減少してきましたが、2月下旬から下げ止まりの傾向が表れ、今後の展開が気になるところです。米国と違い日本はワクチン接種が国民に行き渡るのに時間がかかるため、1年延期されたこの夏の東京オリンピックは海外観客の受け入れを断念する方向で大会組織委員会も調整しているようです。

経済活動の停滞による収入減で苦労されている人も少なくないと思いますが、今後、生活設計の大幅修正を余儀なくされるかもしれません。今回はそうした老後の生活設計に重要な日本の年金の改正について紹介します。

米国在住者でも、現役時に日本の年金(厚生年金、国民年金)に加入して毎月の保険料を支払っていれば、老後に日本の年金を受給することができます。標準の受給開始年齢は65歳(一部の人は60~64歳)ですが、希望すれば最大5年の繰上げまたは繰下げによる請求ができます。繰上げは65歳より前に、繰下げは65歳より後に年金をもらい始める制度で、その分本来の年金額が減額、増額されます。米国年金(Social Security)にも同様の制度があります。この繰上げ、繰下げ制度ですが、2022年に以下の変更が予定されています。

1.繰上げ時の減額率の変更(5% → 4%)

日本の年金制度では、繰上げ支給時には繰上げする月数に0.5%を乗じた分が減額されます。例えば1年(12カ月)繰上げて64歳から受給する場合、0.5%×12カ月=6%となり6%減額されます。最大で60歳(5年=60カ月)へ繰上げが可能ですが、この場合は30%減額されます。一度繰上げをすると後で変更はできず、生涯減額された受給額となります。

2022年(おそらく年度の替わる4月と思われますが、まだ確定していません)の改正で、この減額率が0.5% → 0.4%に変更されます。したがって、1年繰上げて64歳から受給する場合は6% → 4.8%、5年繰上げて60歳から受給する場合は30% → 24%になります。

ここで注意点ですが、2022年より前に繰上げ請求した場合、従来の減額率(1カ月当たり0.5%)が適用され、2022年を過ぎた後もそのまま0.5%の減額が継続される可能性があります。この点について私が先月年金事務所へ問い合わせたところ、「2022年より前に繰上げ請求した場合、2022年時点で繰上げ減額率が自動変更されるかどうかはまだ決定されていない」との回答でした。したがって、2022年以前に年金の繰上げ請求を予定している人は、事前に年金事務所に確認するか、急いで繰上げ請求しなくても良い場合は、その時期以降に手続きしたほうが良いかもしれません。

2.繰下げ期限の延長(70歳 → 75歳)

前述の繰上げに対し、繰下げの場合は年金受給額が逆に増額されます。どれくらいかというと、繰下げする月数に0.7%を乗じた分が増額されます。たとえば、66歳から受給する場合は1年(12カ月)の繰下げなので、受給額が、0.7%×12カ月=8.4%となり、8.4%増額されます。最大で70歳(5年=60カ月)へ繰上げが可能ですが、この場合は42%増額されます。そして今回この上限が5年から10年(75歳まで)に変更されます。10年繰下げた場合、受給額は84%の増額となります。

3.繰上げ、繰下げのメリット・デメリット

受給者一人ひとりによって状況はさまざまなため一概に論じることはできないのですが、目安として年金の総支給額から見たメリット・デメリットを見てみましょう。具体的には本来の65歳支給時と比較し、60歳繰上げ、70歳、75歳繰下げ時の損益分岐点を見てみます。

65歳受給時(標準)と60歳繰上げ受給時の比較
60歳繰上げの場合は5年早くもらい始めますが、受給額が30%少ないため、76歳の時に、65歳に受給開始した場合の総支給額が上回ります。現在日本人の平均寿命※2(男性81歳、女性86歳)を考えると、繰上げ請求はしないほうが良いかもしれません。

65歳受給開始と70歳繰下げ受給時の比較
70歳繰下げの場合は、5年後に42%増額された年金をもらい始めるため、82歳で繰下げ時の総支給額が65歳支給開始時の総額を上回ります。平均寿命を考えると女性は有効かもしれませんが、男性は判断に悩むところです。

65歳受給開始と75歳繰下げ受給時の比較
75歳繰下げの場合は、10年後に84%増額された年金をもらい始めるため、86歳で繰下げ時の総支給額が65歳支給開始時の総額を上回ります。平均寿命を考えると男性はメリットがないかもしれません。女性は判断に悩みます。

なお、この比較は年金支給額だけを取り上げた目安であり、年金所得による税金、社会保険料、将来の年金額改定等による収支は考慮していません。また米国年金や老後の就労、加齢による医療費・介護費の支出によっても老後の資金計画に影響しますので一概に判断はできませんが、一つの知識として知っておくと良いでしょう。

※1:2020年5月に年金改正法が国会で成立されたもの
※2:厚生労働省「令和元年簡易生命表」から

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蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、介護・葬儀・相続など日本在住の老親のサポート)を行う。

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