大学の日本語クラス

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

アメリカの大学の日本語クラスは人気がある。私自身、過去にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)やアーバイン校、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で日本語のクラスを取材させてもらった。学生のなかには当地で育った日系二世の子どももいるが、日本のアニメや漫画のファンとして日本語で作品を理解したいと望む非日系も多く、習得に熱心だった。10年近く前になるが、UCLAの日本語の上級クラスを取材した時は、ある中国系の学生が「どうしても日本で生活がしたい。どうしたら、卒業後に日本の企業に就職できるだろうか」と相談してきた。言語を習得することはそれ自体が目的ではなく、言語はツールに過ぎないといわれる。つまり、その学生にとっては「日本語習得はあくまでツールであり、日本で生活することが目的」なのだ。目的意識が強いほど、日本語の勉強にも熱が入るに違いない。

UCの1校に通うニナもまた、最近、日本語クラスのプレースメントテストを受けた。筆記試験はほぼ満点で、面接では講師に「1番上の会話のクラスに入れるレベル」と言われたそうだ。これに関しては、「親が日本生まれなのだから、子どもが日本語を話せるのは当然」と思うかもしれない。しかし、実際はいずれ日本に帰国が決まっている駐在員と違って、帰国の予定がない永住組の家庭の場合、子どもの日本語力には大きな差がある。

私の周囲の日本人家庭で、子どもが日本語を話さない場合はおおよそ次のようなプロセスを辿る。日本語学校に通わせると土曜にスポーツ試合に出たり、友達と遊んだりできなくなるので、日本語学校には通わせない。すると日本人の友達ができないので、日本語を使う相手は親だけになる。子どもは新しい語彙を習得する機会がないため、日本語での複雑な会話が難しくなる。親も子どもに日本語で説明することに限界を感じ、英語で説明するようになる。子どもは親が英語を理解するならと親に話す時も英語を使うようになる。結果的に子どもの日本語はストップしてしまう。

言語習得の先にある目的

しかし、たとえ日本語学校に通わない子どもでも日本語に興味を示すこともある。それが、前述の「日本のアニメや漫画のファンとして」日本文化をもっと知りたいと自力で学ぶケースだ。ニナは、日本語学校にはガーデナ仏教会附属の幼稚園と小学校に3年ほど通っただけで辞めてしまったが、その後も漫画やアニメで日本語に親しんでいた。そして、友達と日本のアニメを見る時には、日本語を理解しない友達が字幕を追うのに必死になる一方で、自分は耳で分かるから便利だとよく言っていた。私もニナとの会話はすべて日本語で通した。ニナにとって難しい言葉が出てくると、できるだけ別の日本語に替えて説明するように心がけた。

中学や高校に進むと現地校でも外国語クラスを選択できるようになるが、我が学区には隣接のトーランス学区にある日本語のプログラムがなかった。それでニナは中国語を選択した。理由は、「日本語と共通する漢字を学べるから」ということだった。そして、大学では日本語をしっかり学びたいと、ニナはいつしか思うようになったようだ。

前述のプレースメントテストの面接前は緊張したそうだが、「とても優しい先生で話しやすかった。『1番上の会話のクラスに入っていい』と言われたけど、『漢字に自信がないし、いきなりそこから始めても本当に大丈夫でしょうか』と先生に聞いた。そうしたら先生は、『次の週、そのクラスに試験的に出席してみては?』と提案してくれた。そのクラスがとても楽しみ」と報告してくれた。

彼女にとって第二の母国語である日本語に関心を持ってくれて、私はとても嬉しい。大学でのクラスをきっかけに、その先、自分は日本語を使って何をしたいのか、または日本語をどう生かしたいかという目的を見つけてくれることを願っている。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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