住めば都

文&写真/樋口ちづ子(Text and photo by Chizuko Higuchi)

ジャカランダの道

太陽が暖かい。春から夏にかけ、輝く青空と真綿のような太陽の暖かさは格別だ。春先は天候が荒れる。近年は地球温暖化ゆえに、各地で異常気象が報告される。ここ加州でも90度に達する記録破りの1週間が続いたかと思うと、翌週は60度の肌寒い日々となる。春の気候は気ままだ。

私は毎朝、現在住んでいるロサンゼルス、2年住んだパームスプリングス、10年住んだラスベガス、それから将来住んでみたいニューヨークの天候と気温をチェックする。同じ日に天候と気温がどれだけ違うか見るだけだが、それだけでも各々の土地で過ごした日々を思い出し、まるで今もそこに住んでいるかのように追憶に浸る。体験したことや肌で感じた空気を忘れたくない。

ニューヨークは観光で訪れた夏と冬の天候が体の中に新鮮に残っている。憧れの土地で、旅行者だったから高揚していて、暑さ寒さはなんのその。冬に訪れた時は、みぞれ混じりの凍てつく日もあれば、LAでは滅多に経験できないシトシト雨の日もあった。しかし、その翌日は抜けるように晴れ上がり、ダンボ地区のブルックリン橋のたもとから対岸のマンハッタン島を見た時の驚きは忘れられない。この世のものとも思えない神秘的な景色。未来の世界が目の前にあるようなショックを受けた。写真で見るより現実はその数倍もの迫力があった。氷の摩天楼が空を指して屹立する姿。美しいとか、すごいとかいう言葉では言い尽くせない何かがある。上を目指す魂の叫びのようなもの。とうとうと流れるハドソン川の中にそのまま沈んでしまいそうに、ひしめき合って浮かぶ光り輝く摩天楼。野心を胸に情熱を燃やす若者がここに集まるのも当然だ。人の叫びの結晶のような摩天楼は、若者の心を掻き立て、鼓舞する。そこで味わったあの胸騒ぎを忘れたくない。

若かりし日に10年住んだラスベガスも、実は大好きな場所だった。人は初めて訪れた外国が好きになるという。米国で初めて住んだ場所がベガスであったことは、非常にラッキーだった。40年前のベガスは本当のギャンブラーが遊ぶ砂漠の中の小さな田舎町で、アジア人をめったに見なかった。グローサリーでアジア人らしき人を見かけたら、駆け寄って話しかけたぐらいだ。日本人は数人のみ。周りの住人はほぼ全員コケージャンという環境だったから、アメリカにどっぷり浸っている感覚だった。家で簡単な日本語を話すだけで、外は英語の世界。そういう環境から米国生活が始まった。日本人も日本語も大好きだが、もともと英語だけの生活からスタートしたので、私にはここが米国の原点で第二の故郷だ。いつでも戻れる、帰れる。英語を話している時、自分が解き放たれ、自由な気持ちになるのはなぜだろう。誰に気遣いをする必要もない自然な自分に戻る。

ラスベガスの夏は暑い。LAに転居した時は、ベガスのような暑い所によく住んでいましたねと周りから言われることが多かったが、私は不思議な気がした。あんなに良い所はない。日々の生活を支え、将来の夢に向かって邁進できるだけの経済的地盤を持てるならばとても住みやすい所だ。広大な砂漠の中にポツンとある町だから、家は安く、郊外の砂漠は広大でせいせいし、乾燥した気候は体に良い。

難点は、夏は暑く冬は寒いという砂漠気候だ。夏は当然110度以上、外に駐車した車のハンドルをうっかり握ろうものなら火傷した。シャワーの後の濡れた髪は一瞬のうちに乾いた。外出すればまるでドライヤーの中にいるような熱風だったが、当時は若さがあった。1ドルでも節約したいので、10年間、猛暑の夏さえ一度も車の冷房をつけたことがなかった。老いた今は、70度を超えるとすぐに車の冷房をつける自分に気がつき、唖然とする。

どの土地でも、長所、短所がある。そこでどうしたら収入が得られるだろうかとまず考える。生活を支えるだけの収入があること、その仕事を好きになり、家族や友を愛し、地域社会に何かを還元できる人間になること。自分の価値感と生きる目的をはっきり持てば、ぶれない。正しいことを正しく行い、正々堂々と歩めば自信は自然についてくる。競争するのは自分の夢と。他人とではない。住んでいる所を自分の都にするのは自分。幸せは自分で作る。地球のどこに住んでいても、住めば都。きっと叶う。

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう43年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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