遊び上手

文&写真/樋口ちづ子(Text and photo by Chizuko Higuchi)

独断と偏見だが、アメリカ人の良いところは遊び上手なことではないだろうか。日本人の若い方々は私の世代とは違うだろうが、我々の世代は、人は働くために生まれてきたと思っていた。少なくとも、私はそんな教育を受け、そう思っていた。反対にアメリカ人は、例外はあるだろうが、遊ぶために生まれてきた人たちという印象が強い。実によく遊ぶ、というより遊び上手だ。これもある種の才能といえる。

若い人はいうまでもなく、年老いた人たちも、また裕福な人たちは言わずもがな貧しい人たちだって負けてはいない。貧しくても皆それなりに工夫し、しっかり遊んでいる。それを見ると、他人事なのに私はなぜか嬉しい。貧しさをものともせず遊ぶ姿に理由もなくホッとする。遊ぶ姿の中に人間本来の姿があるような気さえする。

長いコロナ禍が過ぎ、やっと経済や社会が立ち直り始めた。そんな時にウクライナ戦争が始まり、今、米国経済は大波乱の時だ。コロナ前の経済絶頂期が遠い昔のように懐かしい。振り返れば夢のような時だった。所属する会社も好景気で、メキシコへの慰安旅行を提供してくれた。すべて無料。大型バスに揺られ、同僚と一緒にカリフォルニアからメキシコの保養地へと向かった。

私には米国での初めての会社の慰安旅行だったから、体験するあれこれに驚いた。乗り込んだバスの中では早朝からお祭り騒ぎが始まった。バスはテレビ付きで映像が流れ、同僚はワイワイガヤガヤ他愛もない話で盛り上がっている。笑いが渦巻き、皆が変わり始める。日頃、スーツ姿で静かに話す彼らがたちまちのうちに笑い転げる陽気な人たちに変貌した。苦虫をかみ潰したような顔で終始憂鬱そうな顔をしている上司さえ、別人のようにニコニコしている。ええ~、彼にもこんな柔和な顔をする時があるんだと、大発見の旅だった。

目的地には昼前に着き、海岸沿いのメキシコ風情いっぱいの美しいレストランでランチが始まった。まずマルガリータが飲み放題。少し飲むと、すぐに背後から注ぎ足してくれるウェイターは美男揃い。我々の背後にまるで侍従のように待機している。その数7、8名も。同僚の女性たちは、あろうことかこれがたいそうお気に召したようで、彼らに注ぎ足してもらいたいためだけに飲むこと飲むこと。そして愉快そうに、この男性は私好み、その隣は趣味ではないなどと大はしゃぎ。作為的なお気楽な娯楽を単純に楽しむその姿に、呆れを通り越していたく感心してしまった。まるでお手本のように上手に楽しんでいる。

ランチ後にお土産屋に行くと、店主の言う値段に現地語で掛け合ってくれる親切心もある。何軒も回ったお土産屋で終始気を配ってくれた。パティオ家具専門店。石膏像やセメント像を売る店。迷路になった何百というお土産屋を物色する時、べらぼうな値段で買わされないようそれとなく見張ってくれる。つかず離れずの距離感。肝心なところでは、ちょっと口を出す世話の焼き方がカッコ良い。それでいながらサウナに行ったり、乗馬をしたりと自分の楽しみもしっかりこなしている。

素直な他愛もないはしゃぎ方と、適度な大人の分別をバランスよく保ちながら、上機嫌で遊びまくるエネルギーに感心した。さすがは遊び人の国の人だ。こんなお手本のような遊び方を見たことが、堅物の私にはこの旅行の一番の収穫だった。

以来、社内の誕生会などにも進んで参加し、肩の力を抜き、スモールトークで誰とでも気楽に交流するコツのようなものを身につけた。ガチガチの仕事の話、柔らかい私的な話題、縦横無尽に話せる多面性を身につけると、人々との交流もスムーズになる。遊ぶことにも興味を示し、積極的に楽しむことがアメリカ社会に溶け込むコツかもしれない。真面目な仕事人、遊ぶことを楽しむ陽気さ、誰にでも手を差し伸べる親切心と強さ、アメリカ人の底力がこんな特徴の中にあるような気がする。

夏こそ自分の殻を破って飛び出し、躊躇することなく遊びまくろう。やりたいことはやりたい時に全部やってしまおう。 私たちは幸せになるために生まれてきた。周りの人を幸せにするために生まれてきた。やりたいことを今実現するために生きている。もっと遊びまくろう。遊び上手になろう。

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう43年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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