Vol.29 5億年分の地球と出会える
グロス・モーン国立公園
− カナダ ニューファンドランド・ラブラドール州 −

文/齋藤春菜(Text by Haruna Saito)

世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2021年8月現在、167カ国で1154件(文化遺産897件、自然遺産218件、複合遺産39件)が登録されている。

カナダの東部、大西洋上に浮かぶニューファンドランド島。この島の西岸に位置するグロス・モーン国立公園には、地殻変動と氷河の浸食によって形作られた自然美が広がっている。この辺り一帯はかつては海だった。しかし、プレートテクトニクスによって海底の地殻が隆起し、地上高くそびえる山脈へと変貌。さらに海岸沿いでは氷河が長い年月をかけて大地を浸食し、フィヨルドと呼ばれる複雑な入り江が形成されていった。

現在は地殻変動により海への流れ道が閉ざされ、淡水湖となっているウェスタンブルック・ポンド

グロス・モーンで採取された岩からは、三葉虫をはじめとする化石群が見つかっている。三葉虫は古生代に海で生息していた生物だ。このことから、ここ一帯がかつて海底にあったこと、また約5億年前のカンブリア紀からオルドビス紀にかけての地層であることが分かった。また、世界的に珍しい地表に押し上げられて露出したマントルも見ることができる。マントルとは惑星・衛星の内部構造の一つで、地殻の奥深くにあり通常なら決して見ることのできない部分だ。これらの特殊な地質構造から、地球の生成や地殻変動の過程、プレートテクトニクスの仕組み、地質学的変化の推移を研究・解明するうえでグロス・モーンは世界的に非常に貴重な指標となっている。大地は今もわずかに隆起を続けており、現在進行形で地球の成り立ちを紐解く研究対象として多くの研究家から注目を集めているのだ。この類まれな自然美と地質学的な重要性が評価され、1987年に世界自然遺産に登録された。

地球の古生代を探検

テーブルランズでは珍しい植物が見られる

約18万ヘクタールもの広大な国立公園は多彩な表情を見せてくれる。

まずは、公園の南側に位置するテーブルランズへ。ここは地表に晒されたマントルで構成された山だ。マントルは金属を多く含んでおり、長年の酸化で山は褐色に変化している。入り江を挟んで北側に回ると、名称の由来となったグロス・モーン山がそびえている。約2600フィートと低山ではあるが、色とりどりの高山植物やライチョウ、ホッキョクウサギといった野生動物が生息しており、ハイキングスポットとして人気が高い。頂上まで上る全長約10.5マイルのトレイルは道のりが険しいが、公園内の最高地点から望む景色は息を呑むような美しさ。

公園の北部に位置するウェスタンブルック・ポンドでは、クルーズ船に乗ってフィヨルドの絶景を楽しもう。両側には、約2万5000年前から長い年月をかけてほぼ垂直に削られた断崖がそびえ、緑溢れる台地はまるで絵画のよう。運が良ければムースやカリブーたちの姿を見ることができるかも。

国立公園の中ほど、海岸沿いに位置するグリーンポイントでは、ビーチやハイキングのほか、サンセットや星空観察なども楽しめる。また、3000年分の地層が隆起によってほぼ縦向きに露出したエリアもあり、地質学者たちの研究の対象としても注目されている。

太古からの歴史を刻んだグロス・モーン国立公園。この地に足を一歩踏み入れれば、地球の壮大な物語が聞こえてくるはず。

フィヨルドや滝など、水源が豊富なグロス・モーン国立公園
遺産プロフィール

グロス・モーン国立公園
Gros Morne National Park

登録年 1987年
遺産種別 世界自然遺産
www.pc.gc.ca/en/pn-np/nl/grosmorne

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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