有名人の親に学ぶ

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

日本でも動画を撮影。シオンさんは右から2人目 写真提供:シオン・カジ

先日、超有名キッズユーチューバーの父親を取材する機会を得た。彼の名前はシオン・カジ。名前だけでピンと来る人は多くないかもしれないが、YouTubeチャンネル『Ryan’s World』にライアンと一緒に登場するお父さんといえば、「あ、あの人!」と分かるはずだ。動画をスタートさせてから7年、同チャンネルは英語版だけで実に約3200万人の登録者を誇る。オリジナルの英語版以外にもスペイン語、日本語、フランス語版なども展開している。なぜ日本語版もあるのかは、ラストネームが「カジ」だということからも予想できるように、ライアンのお父さんのシオンさんが日本人だからだ。つまり、世界で一番人気があり、しかも一番高収入のキッズユーチューバーといわれるライアンは日本人とのハーフということになる。

2022年6月時点でライアンは10歳。動画の中では新しいオモチャを開封して遊んだり、世界各地を旅行したり、さらにはシオンさんと簡単な日本語会話を披露したりしている。最初に彼のことを知ったきっかけは数年前、ニナが「人気のユーチューバーが日本に旅行に行っているエピソードがある」と教えてくれたことだ。見てみると、どうやらお父さんは日本人っぽくはあったが確信は持てなかった。でも、息子をあそこまで人気者にした父親とは一体どんな人なのか、興味津々で公式サイトにあったプレス担当のエージェンシーに取材を申し込むと、なんと翌日、シオンさん本人から返事が返ってきた。しかも日本語で。

聞けばシオンさんは福島県生まれ。父親の仕事の事情で、15歳の時にテキサス州オースティンに渡ってきたそうだ。テキサステックを経てコーネル大学の大学院を修了し、構造建築士として働いた経験を持つ。ベトナム系アメリカ人女性と結婚して生まれたライアンが3歳の時、他のキッズユーチューバーの動画を見た本人から「僕もオモチャを開封する動画に出演したい」と言われて、遊び感覚で始めたのが家族の人生を大きく変えることになった。ライアンが主役の動画は瞬く間に人気を集め、2018年、19年、20年には「最も高収入のユーチューバー」に君臨。さらにライアンをブランド化したビデオとプロダクトは18年には2200万ドル、19年には2600万ドルも売り上げたとされている(出典:フォーブス)。

日本語はマイペースで

よく事情を知らなければ「子どもを働かせて稼いでいる」と偏見を持つ人も中にはいるかもしれない。しかし、シオンさんはあくまでライアンの意思を尊重し、彼がやりたいと思うことを学業に影響を与えない範囲で続けていると話す。今後、ライアンにとって重大な課題は「進みたい道を見つけること」だと即答。それはユーチューバーである必要はなく、現時点では「コメディアンかゲームクリエイターになりたいようです」とのこと。「興味があることにできるだけたくさん挑戦させて、その中から好きなことを見つけてほしい。本人がやめたいと言えば無理して続けさせる必要はありません」とシオンさん。

気になる日本語教育については、これもまた「無理をさせない」方針だ。「家の中は英語だけなので、ライアンの日本語は限られています。でも、将来のために妻や下の娘たちと一緒に日本語のレッスンを受けています。ライアンは日本のアニメが好きで、今は吹き替えで見ていますが『将来、日本語で見られるようになったらいいね』とは話していますね」とあくまでもマイペースだ。

シオンさんと話して、私はほぼ終わった子育てを振り返った。私は子どもたちの興味を引き出す努力を果たしてやってきただろうか? 「活躍する子の陰には親のサポートあり」と実感した取材だった。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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