Vol.30 19世紀の仕組みを今も守る
リドー運河
− カナダ オンタリオ州 −

文/齋藤春菜(Text by Haruna Saito)

世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2021年8月現在、167カ国で1154件(文化遺産897件、自然遺産218件、複合遺産39件)が登録されている。

およそ2000人の作業員により、6年間で建設されたリドー運河

カナダの首都オタワと、5大湖の一つ・オンタリオ湖の東に位置するキングストンを結ぶリドー運河。1832年に開通したこの運河は、今も当時の姿のまま稼働し続けている。19世紀初頭、現在のカナダを植民地としていたイギリス軍は、アメリカ軍の侵攻を阻止するためにこの地に多くの要塞や運河を建設していた。リドー運河もその一つで、軍事物資の輸送ルートを確保する目的で建設されたという。ヨーロッパの技術を採用した運河としては北米最古。建設後は商業的な役割を担い、現在も当時の構造のままで操業を続けられている北米唯一の運河として、2007年に世界文化遺産に登録された。

全長202キロもの長さを誇るリドー運河だが、実は人工的に掘られたのは19キロのみ。オタワ郊外で運河はリドー川と合流し、そこから先はカナダの大自然が広がる。もともとあった自然の川や湖をつなぐことで202キロの水の道を作り上げたため、わずか6年で完成したのだそうだ。

水門の開閉は今も人力

閘門は今も人の手でウィンチを巻き上げて操作される

リドー運河は当時のヨーロッパの最先端技術を利用して造られた。この運河では大型蒸気船の航行も視野に入れ、水位調節のため水を堰き止める47の閘門が設けられている。途中で合流するオタワ川と運河には25メートルの高低差があり、ここを船が行き来できるように造られたのが「オタワロック」と呼ばれる8つの階段状の閘門。1つ目のゲートから船が入ってゲートが閉まると、中に水を流し入れて水位を上げる。水位が上がり切ったら進行方向の2つ目のゲートが開き、次のゲート内で水位調節が行われるという仕組みだ。閘門は木製で、門の開閉はすべて人力。手動でウィンチを巻き上げて門を操作し、船は約1時間半かけてオタワロックを越えて運河を進んで行く。190年経った今も電気が通っていない人力式のまま、当時の設計図をもとに約20年おきに作り替えることで閘門は大切に守られてきた。

19世紀中頃には商業用として利用されていたが、鉄道や車といった陸上輸送の時代になると運河は徐々に役割を失っていき、今は主に観光・レジャー用として使用されている。リドー運河ではカヌーやボードを楽しめるほか、1週間かけて運河を渡る小型船の船旅も実施されている。運河誕生以来、閘門を見守ってきたロックマスターが24時間体制で門を管理する姿を眺めながら、ゆったりとした船旅を楽しむのも一興だろう。また、冬には運河が凍りつき、全長7.8キロのスケートリンクとして解放される。毎年100万人以上の観光客で賑わう一方、通勤・通学に利用する市民も多いようだ。2月には北米最大の冬の祭り「ウィンタールード」も開催され、年中楽しめるリドー運河。運河とともに発展し、人々が守り伝えてきた風景と伝統を肌で感じてみてはいかが。

建国の歴史を物語る美しい町並みのオタワ
遺産プロフィール

リドー運河
Rideau Canal

登録年 2007年
遺産種別 世界文化遺産
www.pc.gc.ca/en/lhn-nhs/on/rideau/


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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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