住みたい国

熊本県八代市の「くまモンポート八代」で

8月の終わりから9月中頃にかけて、私とニナは日本に飛んだ。目的は4年ぶりにニナを祖父母に会わせることと、20歳を迎えた彼女に成人式の着物を着せて撮影をすること。そして口には出さなかったが、今回の日本行きには私には隠れた目的があった。それは「ニナに日本を好きになってもらう」ということだ。そのためにJRパスを購入して、あちらこちらの観光地を巡る計画を立てた。当初は東京、京都、広島を見せたいと思ったが、それを伝えると本人は「東京ではなく友達が住んでいる横浜」「京都ではなくお好み焼きやたこ焼きがおいしい大阪」「広島の平和記念資料館は別に興味がない」(!)との返答。無理矢理、私が見せたい日本を見せても仕方がないので、結果的に横浜、大阪、そして神戸に立ち寄りながら、実家がある九州に南下することにした。

横浜では小学校の時から友達だったMちゃんの案内で、ニナは桜木町周辺を見て回った。ホテルに帰ってきたニナは、こんな話をしてくれた。

「ホテルの人が私を見て『お帰りなさいませ』と言ってくれたんだけど、どうしたらいいか分からなかった。だって、ここは家じゃないでしょ? 『ただいま』で合ってるの? そういえば、コスモワールド(遊園地)でローラーコースター(ニナはこう言ったが、日本の呼び方はジェットコースター)が最初の場所に戻ってきた時も、スタッフの人が『お帰りなさい』って言ったの。その時は思わず『ただいま』って言っちゃった。それで合ってた?」

私が「じゃあ、一緒にコースターに乗ってたMちゃんは何て言ったの?」と質問すると、ニナは「黙っていたよ」と答えた。日本の大学に入学したMちゃんには、すでに日本人的なリアクションが身に付いているのだ。私が「日本では黙ってにっこり笑うとか頭を下げるとか、それくらいだよ」と言ったが、ニナは納得していないようだった。

“I don’t belong here”

その後、大阪では大阪城、水上バス、道頓堀、神戸ではメリケンパークに北野異人館巡りと私は精一杯、観光ガイドを務めた。さらにニナの従姉妹がいる熊本県を訪ねたり、予定通り着物を着せて記念撮影をしたり、ブドウ狩りに出かけたり、フグをはじめおいしい日本の料理を一緒に満喫した。高校卒業後に日本に移り住んだニナの兄、ノアと一緒に行動する時の彼女は、特に楽しそうに見えた。

私は近く日本への引き揚げを計画している。それは80代の両親の世話をする時期が来ているからだ。日本からアメリカに飛び出した私を30年にわたって自由に生活させてくれた両親に、一人っ子の私は恩返しをしなければならない。そして、私が日本に帰る頃、カリフォルニアの大学を卒業するニナが日本で就職してくれたらと私は心の中で願っていた。ところが3週間以上にわたる日本での滞在を終えたニナに感想を求めると、彼女の返事は「日本はしっくりこない。I  don’t belong hereって思った」だった。 「日本にどうしても住みたい」と移住した兄と違って、「日本には住みたくない」という結論を出した妹。離れていても、本人が住みたい国でやりたいことをやってくれるのが、親としては一番だと今は自分で自分を納得させようとしている。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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