Vol.31 自然を守る巨大なゆりかご
ウッド・バッファロー国立公園
− カナダ アルバータ州 −

九州より広いウッド・バッファロー国立公園には、森と湿地がどこまでも続いている ©Parc national Wood Buffalo

かつて北米大陸には、約6千万頭もの森林で暮らすアメリカバイソン、ウッドバッファローが生息していたという。しかし、植民地開拓のために先住民の食料を断つ手段としての大量虐殺や毛皮目当ての乱獲などにより、20世紀初頭にはわずか数百頭にまで減ってしまった。この絶滅の危機に面したウッドバッファローを保護する目的で設立されたのが、カナダ北西部アルバータ州にあるウッド・バッファロー国立公園だ。

ウッド・バッファロー国立公園は、450万ヘクタールの広さを誇る世界最大級の国立公園。1922年にグレート・スレーヴ湖の南側が国立公園に指定され、1926年に面積が2倍に拡張された。現在この地は北米大陸でもっともバッファローの生息数が多い地域となっている。そして、バッファローがオオカミに捕食されるという関係性が長い間途切れることなく続いている唯一の場所だ。バッファローだけでなく、ここは絶滅の危機に瀕しているアメリカシロヅルの営巣地ともなっている。アメリカシロヅルは絶滅危惧種に指定されており、公園内のわずかな繁殖ペアを慎重に管理することで、少しずつ個体数を増やすことに成功しているのだという。

野生動物のほかにも、北極にほど近いこの土地では大規模な内陸デルタや塩田、石膏カルストといった世界的に希少な自然現象を見ることができる。このように、北米の大平原〜北方草原地帯の生態系をもっとも良く再現していること、絶滅のおそれのある野生生物種を保護していること、そして類まれな自然現象が評価され、ウッド・バッファロー国立公園は1983年に世界自然遺産に登録された。

カラフルな大地に眠る太古の記憶

現在は3000頭ほどのバッファローが暮らす

ウッド・バッファロー国立公園を上空から見下ろすと、白、赤、緑、エメラルドと色彩豊かな絨毯のような光景が広がっている。白は塩の結晶、赤は塩性の大地に育つ植物。そして、石灰岩の大地が浸食によって陥没してできた湖はエメラルド色に輝いている。これらの自然環境は、この地が遠い昔、海に覆われていたことを物語っている。そんなカラフルな光景も、冬になれば一面雪に覆われ、真っ白な世界へと塗り替えられるのだ。

広大な公園の特徴の一つに、内陸デルタがある。デルタとは、河川によって運ばれた土砂が河口付近に堆積することによってできる地形のこと。2つの川によって作り出されたウッド・バッファローの内陸デルタには、ビーバーが巣やダムを作って暮らしている。森の奥深い場所には何世代もかけて作られた全長870メートルにも及ぶビーバー・ダムがある。衛星写真でしか確認することのできない、世界最大のビーバー・ダムだ。

水量の豊富な内陸デルタ周辺は、アメリカシロヅルやその他の野生動物たちを守り育てる巨大なゆりかご。ここでは絶滅の危機を回避するための努力が今も続けられている。

冬に備えてせっせと働くビーバー
遺産プロフィール

ウッド・バッファロー国立公園
Wood Buffalo National Park

登録年 1983年
遺産種別 世界自然遺産
www.pc.gc.ca/en/pn-np/nt/woodbuffalo

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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