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ソーシャル・セキュリティの基本③ 棚ぼた防止規定(WEP)による減額
- 2024年5月21日
アメリカのソーシャル・セキュリティは、リタイア後の安定した収入を提供しています。しかし、厚生年金を同時に受給すると、棚ぼた防止規定(Windfall Elimination Provision、WEP)が適用され、ソーシャル・セキュリティの受給額が減額されることがあります。この記事では、WEPの概要、適用条件、減額の仕組みについて詳しく説明します。
棚ぼた防止規定(WEP)とは
WEPは、ソーシャル・セキュリティ税の対象ではない所得に基づいた年金(Non-covered pension)をソーシャル・セキュリティと同時に受給している場合、ソーシャル・セキュリティが減額される制度です(遺族年金は対象外)。日本語では、棚ぼた防止規定と訳されます。Non-covered pensionは、ソーシャル・セキュリティの加入対象とならない年金制度のことで、連邦・地方政府の職員や教員などが加入する年金制度の一部や外国の年金制度が該当します。
厚生年金は、この外国の年金制度に含まれます。一方、WEPによる減額の対象は労働(Work)に基づいた年金制度のみで、基礎年金(国民年金)はresidencyに基づく制度とみなされ、WEP対象ではありません。基礎年金と厚生年金の違いは、ソーシャル・セキュリティ・アドミニストレーションの担当者がよく理解していない場合があるので、不要な減額をされないように注意が必要です。
さて、なぜ「棚ぼた防止」(Windfall Elimination)なのでしょうか。それは、ソーシャル・セキュリティが低所得者に手厚い設計になっていることと関係があります(ソーシャル・セキュリティ給付の算定基礎となるPIA(Primary Insurance Amount)とは)。例えば、州の教職員年金(ソーシャル・セキュリティ加入なし)に25年加入した人が、その後民間企業で10年働いて、ソーシャル・セキュリティの受給資格を得たとします。この人は、ソーシャル・セキュリティ税を納めた報酬履歴が10年しかありませんので、設計上、掛金に対して手厚い給付がもらえます。しかし、州の教職員年金からの受給もありますので、本来手厚い支給をすべき対象(長期にわたる低所得者)ではないはずです。その調整を行うのが、WEPです。
WEPによる減額
まず日本人にとってのWEPの適用条件を確認します。適用になるケースは、
・ソーシャル・セキュリティと厚生年金を同時に受給している
・日米社会保障協定による加入期間通算10年以上ではなく、ソーシャル・セキュ
リティの40クレジット以上(10年以上加入)による受給資格取得である
の両方にあてはまる場合です。そしてその場合でも、ソーシャル・セキュリティ税の支払い期間(Substantial Earnings以上の所得)が30年以上になると、減額はなくなります。
個別の減額の計算方法はかなり複雑です。結論として「最大で587ドル(2024年)か厚生年金月額の半分の小さい方」ととなります。具体的な計算方法にご興味のある方は「ソーシャル・セキュリティと厚生年金:棚ぼた防止規定(WEP)」をご覧ください。
WEPを踏まえた年金請求のタイミング
まとめると、WEPによりソーシャル・セキュリティが減額されるのは、 ソーシャル・セキュリティ税の支払い期間(Substantial Earnings以上の報酬)が10年以上30年未満の場合、かつ厚生年金とソーシャル・セキュリティを同時に受給する場合です。その際、毎月の減額は「最大で587ドル(2024年)か厚生年金月額の半分の小さい方」になります。
WEPの対象になる方の年金請求においては、ソーシャル・セキュリティの受給開始年齢、受給額だけでなく、厚生年金の受給開始年齢、受給額を考慮することも大切です。WEPは、厚生年金とソーシャル・セキュリティを同時に受給する場合に適用されるからです。繰り上げ・繰り下げ受給はソーシャル・セキュリティ62から70歳、厚生年金60から75歳の範囲で可能で、様々な組み合わせがありえます。それぞれの受給開始年齢によって、増額率・減額率に応じてソーシャル・セキュリティ、厚生年金の受給額が変わり、WEPの計算に影響を与えます。
具体的な計算例は、こちらの記事「ソーシャル・セキュリティと厚生年金:WEP減額による影響を小さくするには」もご覧ください。
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