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ソーシャル・セキュリティの基本⑤ 財政の2034年問題
- 2024年6月26日
これまで4回にわたって「ソーシャル・セキュリティの基本」を解説してきましたが、最後にソーシャル・セキュリティの財政問題について触れ、締めくくりたいと思います。
ソーシャル・セキュリティ積立金の評議会は、毎年ソーシャル・セキュリティの財政収支予測を発表しています。最近2024年版のレポートが公表されました。その内容について見てみましょう。
2024年版レポートの要点
ソーシャル・セキュリティは、引き続き厳しい財政状況に直面していることが指摘されています。具体的には、
- 老齢年金・遺族年金用の積立金(Old-Age and Survivors Insurance (OASI) Trust Fund)は2033年まで給付の100%を支払い可能と予測(2023年レポートと同様)
- その後積立金がなくなっても、その他の収入で給付(老齢年金・遺族年金)の79%を支払うことができる
財政問題の原因
ソーシャル・セキュリティは、日本の公的年金と同じように、賦課方式(pay as you go)として設計されています。賦課方式というのは、ある時点の現役世代から徴収する掛金を使って、同じ時点の受給者の給付を支払うというものです。今の現役世代が将来受給者になった時、その給付を払うのはその時点の現役世代ということになります。
ソーシャル・セキュリティの給付が増え続けており、それが財政悪化の要因です。背景としては、ベビーブーマー世代のリタイアメント(1日あたり推定約1万人)、平均寿命の伸長(1935年65歳から現在76歳)、少子化があげられます。1970年代までは10人から15人の現役世代に対して1人の受給者だったのに対して、現在は約3人の現役世代に対して1人の受益者というバランスになっています。問題の構図は、日本の公的年金の問題と同じです。
1980年代初頭の財政危機
1970年代終わりからソーシャル・セキュリティは毎年赤字(掛金収入より給付支払いが多い状態)となりました。そこで、議会は1983年にソーシャル・セキュリティの財政を抜本的に改革する1983 Amendments to the Social Security Actを成立させました。
1983年改革には
・ソーシャル・セキュリティ税率の5.4%から6.2%への引き上げ
・給付算定方式の引き下げ
・標準受給開始年齢(Full Retirement Age)の引き上げ
・それまで非課税であったソーシャル・セキュリティを課税対象化
などがありました。
これらの変更は、掛金収入の余剰分を積立金として蓄える意図をもって行われ、その積立金は2020年までもつことが期待されました。積立金はその期待を大きく上回り、今では2034年前後まで存続すると予測されています。積立金が枯渇するというとセンセーショナルに受け取られがちですが、実は当初計画をよりもかなり成功裏に進展しています。
政策合意は形成されるか
ソーシャル・セキュリティの財政問題を改善する施策については、すでに様々な提案がされています。基本的には収入を増やす(増税、課税ベースの引き上げ、積立金の積極運用など)、支出を減らす(受給年齢引き上げ、給付引き下げなど)、その両方に関わるものです。
今年は大統領・議会選挙の年で、民主党、共和党が社会保障制度改革についてどのような政策を打ち出すかは要注目です。今までのところ、民主党は富裕層、高所得者などへの増税、共和党は給付の引き下げ、標準受給開始年齢の引き上げといった主張を唱える傾向があります。
どのような対策を行うかだけでなく、いつ対策を行うかも重要です。今の政治状況で迅速な合意がなされると見る識者は多くないようですが、積立金が枯渇する直前の対策では、現役世代、リタイア世代双方に急激な変化が生じる可能性があります。それを避けるためには、早めに制度改革に着手することが望まれます。
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