第62回 STEM専攻と大学合否の決め手

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

 ニナが通う高校の講堂で、「STEMと大学進学」をテーマにした保護者向けの講演会が開催された。STEMとは最近よく耳にする言葉。サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マスマティックスの頭文字を取ったもので、日本語で言えば「理数系」に相当するのだろうか。講演会のチラシによると、いかにSTEMを大学で専攻することが社会に出た時に有利か、についての説明が行われるらしい。

理数系がまるでダメな私と違って、ニナは得意な方だ。コンピュータも携帯電話も私は使う専門だが、ニナはいつも私のためにセットアップしたり、トラブルシュートしたりしてくれる。彼女が一番好きなのはアートなのだが、理数系もイケるのではないか、と私は思っている。アート専攻は仕事に就くのが大変そうだけど、コンピュータサイエンスを専攻したら引く手数多じゃないのか、と捕らぬ狸の皮算用をしてみたり。

さて、講演会。500名ほどの保護者と学生たちで会場は埋まった。盛況だ。スピーカーは民間の大学進学相談サービスのカウンセラー、S氏。しかし、単なる宣伝に終わらず、彼が非常に有益な情報を提供してくれたのには前職が関係している。民間企業に転職する前はシカゴ大学、カリフォルニア工科大学、そしてカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のアドミッションオフィスに勤めていたと言う。つまり、「志願者の大学合否を決める側」にいたのだ。

彼の話は、アメリカで高給を取っている職業のランキングから始まった。トップは医師で、それ以外の多くもSTEM専攻者の職業だった。ただし、3位に「特許弁護士」がランクインしていた。弁護士はSTEMではないはず、と思っていると、S氏が「実は毎年、ある程度の割合の学生がカリフォルニア工科大学を途中で辞めて、弁護士になるためにロースクールに行く。行き先はもちろんハーバードやスタンフォードのロースクール。つまり工科大学で学んだSTEMの頭脳は弁護士に転身した場合にも生かされるのだ」と説明した。

さらに彼は「男子学生に比べて、女子学生の場合は、大学の専攻を決める前にSTEMは苦手だと決めつけて敬遠する傾向があるが、実は置かれた環境がSTEMを遠ざける要因となっていることが多い。UCLAなどでも無料で週末に開講されているSTEMのコースや、オンラインで提供されているSTEM関係のコースをそれとなく、親から勧めてみてはどうだろうか? 無料ならプレッシャーはないし、またオンラインだとマイペースで取り組めるので続けやすい」と、どこまでもSTEM押し。

パッションとインパクト

STEMの専攻に決めれば未来は明るいのか? と疑問が生じた時に、S氏はまるで人の心が読めるかのごとく、次のように続けた。「でも、そこにはパッションが必要だ。私が以前、進学のカウンセリングを担当した女子高生が医者になりたいと言っていた。なぜ医者なのか、と質問すると沈黙した後、『えーっと、人を助けることができるから?』と、私にまるで確認するように答えた」。要するに、STEMの専攻にすれば、高収入の職業に就ける可能性が高いが、本人がパッションを感じられる分野でないと意味はないということだ。それは確かにそうだろう。

こうして講演は終了したが、質疑応答でこんな質問をした保護者がいた。「あなたが大学のアドミッションにいた時、何が合否の決め手だったか?」。グッドクエスチョン! S氏は「合格を勝ち取るのは、学校の内外で目的意識をもって何らかの活動に従事したことを証明できる学生だ。その活動への取り組みを訴えた結果、私たちのような審査する側にどれだけのインパクトを与えることができるかで決まる」と答えた。S氏が言うには、合否を決めるスタッフの平均年齢は20代後半と非常に若いそうだ。だからこそインパクトの強さが重要なのかもしれない。

そして、家に帰った私は、ニナに「学生も大勢来てたよ。すごく役立つインフォメーションだったよ」と伝えた。彼女の返事は「ふーん、良かったね」。そこにパッションはあるのか?

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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