ソーシャル・セキュリティの基本④
年金に関する所得税制

ソーシャル・セキュリティ給付金のみが収入源である場合、所得税が発生することはまずありません。その一方、ソーシャル・セキュリティ以外の所得がある受給者は、ソーシャル・セキュリティ給付金の最大85%が連邦所得税の課税対象になる可能性があります。この記事では、このソーシャル・セキュリティに関する連邦所得税の仕組みについて詳しく説明します。

以下で、連邦所得税の課税対象となるソーシャル・セキュリティの金額算出のプロセスについて、順を追って見ていきましょう。

ステップ1:コンバインド・インカム(Combined Income)の計算

まず初めに、ソーシャル・セキュリティ給付金が課税の対象となるかどうかは、コンバインド・インカムと呼ばれる指標に基づいています(プロビジョナル・インカムと呼ばれる場合もあります)。このコンバインド・インカムは、受給者のModified Adjusted Gross Income(MAGI)、ソーシャル・セキュリティの1/2、非課税債券(Muni bondなど)の利子収入などを合算して算出されます。

ステップ2:Adjusted Gross Incomeに算入される金額の計算

次にソーシャル・セキュリティ給付金、コンバインド・インカムと二つの基準値を使って、Adjusted Gross Incomeに算入される金額を計算します。

コンバインド・インカムに関する一つ目の基準値は、単身者が25,000ドル、夫婦合算申告で32,000ドルです。二つ目の基準値は、単身者が34,000ドル、夫婦合算申告で44,000ドルです(下のグラフ)。

そして、以下の三種類の数値を計算し、そのうち最も小さい金額が受給者のAdjusted Gross Incomeに算入されます。

  • ソーシャル・セキュリティ給付金の85%
  • 給付金の50%と、コンバインド・インカムのうち二つ目の基準値を超えた額の85%の合計
  • コンバインド・インカムのうち、一つ目の基準値を超えた額の50%と、二つ目の基準値を超えた額の35%の合計

ケース・スタディで計算してみましょう。
ある夫婦のMAGI(ソーシャル・セキュリティ以外の所得)$36,000、ソーシャル・セキュリティが$40,000だとします。

すると、コンバインド・インカムは、
$56,000=MAGI $36,000+ソーシャル・セキュリティの1/2 $20,000
となります。

三種類の数値を計算すると、
・ソーシャル・セキュリティ給付金の85%=$34,000
・給付金の50%と、コンバインド・インカムのうち二つ目の基準値を超えた額
 の85%の合計=$20,000+$10,200=$30,200
・コンバインド・インカムのうち、一つ目の基準値を超えた額の50%と、二
 つ目の基準値を超えた額の35%の合計=$12,000+$4,200=$16,200

したがって、最も小さい$16,200が受給者のAdjusted Gross Incomeに加算される金額となります。この額はソーシャル・セキュリティ給付金の40.5%にすぎず、ソーシャル・セキュリティが他の所得に比べ優遇されていることがわかります。

この例でのAdjusted Gross Incomeは、
MAGI $36,000+ソーシャル・セキュリティのAGI算入額 $16,200=$52,200
になります。

ステップ3:Taxable Income、所得税額の計算

実際に税率をかけあわせて所得税を計算する所得は、Taxable Incomeです。Taxable Incomeは、Adjusted Gross Incomeから各種所得控除を差し引いて計算します。

ここでは、二人とも65歳以上の夫婦合算申告における2024年の標準控除(Standard Deduction)$32,300を使って計算してみましょう。

さきほどの例のTaxable Incomeは、
Adjusted Gross Income $52,200ー標準控除 $32,300=$19,900
になります。

Taxable Incomeが$19,900の場合の所得税率(夫婦合算申告、2024年)は10%ですので、所得税額は$1,990となります。

考慮すべきポイント

 ・所得管理の重要性
  ソーシャル・セキュリティ以外の所得がある受給者は、給付金の一部が課税
  対象になる可能性を認識しておく必要があります。できれば、コンバイン
  ド・インカムが2つの基準値のどこに位置し、どの程度がAdjusted Gross
  Incomeに含まれるか把握しておくといいでしょう。

 ・Required Minimum Distribution (RMD)に注意
  401(k)やTraditional IRAは73歳からRMDが適用され、毎年一定額以上を引 
  き出す必要があります(必要な引き出し額に満たない部分に25%のペナルテ
  ィが発生します)。引き出し額はその年の所得(MAGI)に加算され、コン
  バインド・インカムを引き上げる要因になります。RMDを見越して、リタ
  イア後に所得が低くなる時期があれば、401(k)やTraditional IRAから資金
  を引き出す、またはRoth口座にコンバージョン/ロールオーバーしておくこ
  とも有効な場合があります。

まとめ

ソーシャル・セキュリティは、連邦所得税制上、最大でも給付金の85%までしか課税対象にならず、他の所得に比べ優遇されています。実際、収入がソーシャル・セキュリティ給付金のみである場合、所得税が発生することは稀です。

しかし、そもそも課税対象になりうることやその仕組みはあまり理解されていないのが実情です。リタイア後も投資や不動産などの収入が見込まれる方、401(k)やTraditional IRAに大きな資産がある方は、所得税の計算方法を理解し、将来の計画に反映させることが肝要です。

ちなみに、2024年時点では、コロラド、コネティカットなど9州がソーシャル・セキュリティに何らかの州税を課しています。それ以外の州は、ソーシャル・セキュリティに州税はかかりません。

詳しくは、「ソーシャル・セキュリティ:州税がかかる州、かからない州 」をご覧ください。


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後藤浩 (Hiroshi Goto)

後藤浩 (Hiroshi Goto)

ライタープロフィール

Goto Financial Advisory LLC 代表
東京大学経済学部卒。早稲田大学大学院経営管理研究科修士(MBA)第一生命、PwC勤務後、年金基金向け運用コンサルタント、米系資産運用会社の執行役員など25年の資産運用業界経験を有する。2023年に在米日本人のためのフィナンシャル・プランニング法人、Goto Financial Advisory LLC設立。 リタイアメント・プランニングに役立つブログ多数掲載中。 2019年よりテネシー州在住。Sister City of Nashville 理事。資格:CFA協会認定証券アナリスト、米国税理士、認定ソーシャル・セキュリティ・アナリスト

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