【ニューヨーク不動産最前線】
MLSリスティング

この間『正直不動産』という日本のテレビドラマを見ました。タイトルが気になって見始めたらおもしろくてはまってしまい、全話見てしまいました。今やアメリカ暮らしのほうが長くなった私にとって日本の住宅不動産業界の話はとても興味深く、ニューヨークとの違いにも気付かされて、目からウロコと共にとても勉強になりました。今日はドラマを見て気がついたニューヨークと日本の不動産との違いについてお話ししたいと思います。

(米国では週ごとに不動産の免許や法律が異なるので、この記事はあくまでもNY州に関する内容です。他州では異なる場合もあるかもしれないことをご理解ください)

一番印象に残ったのは物件のリスティングの仕方とシステムの違いです。日本では、物件探しの時に複数の会社を訪問していて、時間もかかるし効率が悪いのになぜだろうと思っていたのですが、それは不動産会社によって紹介される物件が違うのだと気づきました。それで調べてみたところ、日本とNYCではリスティングの仕組みが違うことが分かりました。

オーナーが物件を売ると決めた場合は、不動産ブローカーと契約をします。契約には、「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があるのは日本でもアメリカでも同じですが、ここではそれぞれの細かい特徴の説明は省くとして、私が驚いたのは専任契約、専属専任契約を結んだ後の実際のマーケティングの仕方の違いです。

米国では地域ごとにMLS(Multiple Listing Service)という物件情報データベースがあり、ニューヨーク市では、公的機関ではないもののREBNY(Real Estate Board of NY)という団体が運営するRLS(REBNY Listing Service)というデータベースがもっとも多く利用されています。NYCの不動産会社は大手・個人を問わず大多数がREBNYに加入してこのデータベースを共有しています。

ニューヨークではオーナーとの販売委託契約が完了すると、不動産会社は24時間以内にその物件をRLSに登録することが義務付けられています。RLSに登録された物件は、データベースに紐付けされた数多の物件紹介サイトに情報共有されて、誰でも検索可能となります。買い手(借り手)は欲しい情報を得るために複数の不動産会社に問い合わせる必要はなく、好きな会社やエージェントを通して物件を内見することができます。専任契約を結んでいる会社だけが情報を独占・捜査する「囲い込み」というのは起こり得ないシステムなのです。情報は買い手にとって常にオープンで、どこの不動産会社、どのエージェントに依頼しても同じ情報を同じタイミングで得られるので、不動産会社を渡り歩く必要がありません。また、売り手(貸し手)にとっても、一社に頼めば他のすべての不動産会社にも情報共有されるため、すべての人にとって効率的なシステムになっています。

また、物件の売却・引渡し(クロージング)が完了したら、不動産会社はクロージングから24時間以内にRLSのリストからその物件を削除する必要があります。売れてしまった物件がずっとデータベースや検索サイトに残っていることもないので、いわゆる「おとり物件」なるものも存在しません。アメリカのマーケットは日本に比べるととても透明性が高く、売り手にとっても買い手にとっても効率の良いマーケットだと感じました。

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柏原知子 (Tomoko Kashihara)

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

ライタープロフィール

大阪女子大学(現:大阪府立大学)卒業後、CBRE Japanに入社。東京で外資系企業のオフィス移転を担当する商業不動産ブローカーとして働いた後、ニューヨーク勤務を機に住宅ブローカーに転向。1999年より住友不動産販売NYで活躍した後、2021年に米系大手Compassに移籍。趣味は旅行、クルーズ、トレッキングとイタリア語。

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