海外教育Navi 第103回
〜英語力の差に悩む必要はない〜〈前編〉

Q.帰国生の多い学校に入学したところ、自分の英語力に自信を失い、やる気をなくしています。どうすればいいのでしょうか。

はじめに

引っ越して学校を転校したり、進学して上級の学校に入学したりしたときなど、慣れた環境が変わってしまうと誰でも違和感を持つものです。なかでも海外に移り住んだことのある皆さんは大きな変化を経験しています。逆に長く海外にいると、日本に帰国することも大きな変化でしょう。

一生懸命に勉強して志望していた中学校や高校に入学できても、たとえばはじめのテストでよい点数が取れなかったりすると、自分はもしかすると間違って入ってしまったのではないかと思うことがあるかもしれません。能力が同じくらいの人の間に入っても、少しの違いが大きく感じられることもあるでしょう。

しかし1回や2回のテストで実力がわかるわけではありません。自分を卑下しないで、いままで通り努力を重ねればかならず取り返すことができます。

もちろん、志望する学校に入れなかった場合も、大きく差があったわけではありません。与えられたところでがんばることこそなにより大事なことです。

英語力と環境

英語力の差については本人の能力以外の要因が影響してきます。海外でどのように英語(外国語)を習得できるかはそれぞれの環境によって異なるのです。

幼児から長く英語圏に滞在していた場合はネイティブスピーカーに近い英語力を獲得していることも多いでしょう。何歳から滞在していたかや、期間の長短だけでなく、英語圏か非英語圏か、通っていた学校が現地校かインターナショナルスクールか日本人学校かなどの本人の努力以前の環境の違いが英語の習得に大きな影響を及ぼすのです。

ふたりの例を紹介しましょう。

「香港の日本人学校に通っていて英語にはけっこう自信があったのに、帰国生の多い学校に入ってみると、現地校が長い人にはまったく歯が立たなかった。ショックで悔しかったので必死に勉強した。そのおかげで大学では自信を回復できた」

「私は英語による教育を受けたのが小学校に入る前のアメリカに住んでいたときだけで、ほかは家庭で日常言語として使用していたぐらいだった。だから英語で上のレベルのクラスに入っているのが不思議だった。では少しは英語ができる方なのかなと思いきや試験などでは苦戦した。だけど日常的に話す分にはまったく問題はない。むしろ日本語より英語の方が楽なときもある。自分は英語ができるのか、それともできないのかわからなくなってしまった」

英語力については学力や努力の量だけで決まるとはいえません。言語の力は環境によって大きな影響を受けます。そしてその上下について簡単に比較できるものではありません。

必要な英語力はそれぞれ

与えられた環境のなかで獲得できる英語力には大きな違いがあります。しかしそれぞれの与えられた環境のなかで自分としてがんばったといえるのであれば、ほかの人と比較するのではなく、いま獲得している英語力に自信を持ってよいのではないでしょうか。

他の帰国生の持っている発音の流暢さ、会話力、ニュアンスの理解力といった生活するなかで得られた英語力にはかなわなくても、これから大学や社会に出て専門的な分野で活躍するために必要な英語力は、いまの英語力で決まるものでなく、自分が持っている総合的な学力をベースに努力することによって身につけていくことができるものです。

すでに社会に出ている人の例を挙げます。

○日本国内で育ち、現在では大学の英語の教授をしているかたの高校生時代の思い出。

「帰国生の多い高校に入って最初は帰国生の流暢な英語に圧倒されたが、冷静に考えてみたら、彼らの英語はあくまでも中学校レベルにすぎないし、よく聞いてみるとふだん話している内容は普通の高校生と変わらない。アカデミックな英語力をつける点では同じラインにあると自分に言い聞かせてがんばった」

○日本人学校出身で、現在NASAで働いている研究者はこうエールを送ります。

「僕はいまでも英語の会話はそれほど得意だとは思わないけれど、NASAのなかで理系の議論をするとき必要な英語は論理的で決まりがあるから、普通の会話より簡単。だから英語力なんて心配不要、目標を見つけてがんばれ!」

→「第104回 〜英語力の差に悩む必要はない〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員
海外子女教育振興財団 教育アドバイザー  
中山順一

帰国子女の受け入れを目的に設立された国際基督教大学高等学校で創立2年目から38年間勤務。6000人以上の帰国生徒とかかわった。2008年より教頭。教務一般以外に入試業務(書類審査を含む)も担当した。2017年より海外子女教育振興財団で教育アドバイザーを務める。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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