子どもの学校適応と心のケア

カウンセラーに聞く!子どもの適応サポート法

取材協力
河瀬さやか
sayakakawaseclinic@gmail.com
医科学博士&心理カウンセラー
www.sayakakawase.com

Q. 子どもから「学校に行きたくない」と言われたら、親としてどのように行動したらいいでしょうか?

毎日通うはずの学校に「どうしても行きたくない」と感じてしまうのは、お子さんのこれまでの人生における最大級の悩みでしょう。悩みのサイズが大きい時にこそ大切にしたいのは、答え(何を選ぶのか)ではなく、そこへ辿り着くまでのプロセス(なぜそれを選ぶのか)です。行きたくない理由は?考えられるオプションは?それぞれのオプションの良い点と悪い点は?決断がもたらす短期&長期的な影響は?など、お子さんにとってベストな答えを導くための思考プロセスを、旅の地図をなぞるように一緒に考えてみてください。完全なものでなくても、年齢が小さければできるところまでで十分です。こうしたプロセスを通して、子どもは問題解決のステップを学びます。正解を見つけることより、こうした経験と学びがいずれ子どもの財産になるはずです。そもそも、プロセス重視でたどり着いた答えに大きなハズレはありません。ただ唯一、気をつけなくてはならないのは「回避」というオプションです。どんな状況であれ、回避からは何も生まれません。もしどうしても回避を選ぶ必要があるのだとしたら、一生に一度だけ使える特別なカードとして扱うことをおすすめします。一度しか使えないのであれば、ここで使ってしまってもいいのか、一旦我慢して後に取っておいた方が良いのか、じっくりと考えた上でお子さんに選んでもらいましょう。

Q. もし子どもが学校でいじめや差別を受けている(可能性がある)と判明した場合、親としてどのように行動を起こし、どのようにサポートしたらいいでしょうか?

いじめや差別の問題は、当事者だけでなく周りにいる人の強い感情や正義感を駆り立てます。ここでまず考えておきたいのは、同じ場所で同じ体験をしていても、皆それぞれのストーリーがあるという点です。悪意のないズレも起こります。こうした可能性も考慮しつつ、状況の全体像を把握するステップを省かないことを心がけましょう。状況改善の糸口が案外身近にあることも少なくないからです。その上でお子さんに伝えて欲しいのは、いじめや差別をする人間が可哀想だということです。傷つけられれば確かに痛い。でもその痛みより深刻なのは、意図的に誰かを傷つけることができてしまう心の闇です。もしくは人の気持ちを感じられる力、多様性や社会性への理解力の欠如です。傷は時間と共にいつか癒えますが、心の闇は深く、無知はその人の可能性を閉ざします。この先、人として苦労するのは傷つけた側なのです。お子さんにしっかりと寄り添いながら、被害者マインド(可哀想)になる必要がないことを自信をもって伝えましょう。その上で、自分の傷(相手ではなく)にどう決着をつけたいのか、お子さんが納得のいくストーリーの結末を一緒に考えてみてください。「自分が終わらせる」という最終ステップが実現できれば、一回り強くなったお子さんに出会えるはずです。

Q. 子どもの本音や気持ちを引き出すコミュニケーション方法を教えてください。

効果的なコミュニケーション方法は、お子さんの性格や年齢または状況によって異なります。ここでは細かく説明できないので、あえて本質的な話をさせていただくと、まず子どもの本音を引き出そうなどと思わないことをおすすめします。もし誰かがあなたの一番深いところにある感情を探ってきたら、どう思いますか? これは子どもでも同じです。本音をいつ誰に話すかは、聞き手が決めることではありません。また、子どもが本音を話す相手は親である必要もありません。友達、サッカーのコーチ、近所の高校生、誰でも構わないのです。親にできることは、「何時でも聞ける準備ができてるよ」と伝えておくこと、子どもが話したいタイミングでそばにいてあげることぐらいです(これはコントロール不可ですが)。ティーンが相手なら、「親じゃなくても誰かに話すと楽になるよ」と肩を押してあげても良いでしょう。小学生低学年ぐらいですと、感情の理解や語彙に制限があり、言葉で表現できずにモヤモヤしている場合もあります。そんな時は、さまざまな感情や思考を書いたカードから適切な答えを選ぶように、こちらから選択肢を準備することもできます。子どもにとっての親は本音が言える相手である必要はありませんが、何があっても必ず戻れる安全な場所ではあって欲しい。そんな安心できる場所でい続ければ、大人になったお子さんは迷わず親御さんに本音を話してくれるでしょう。

Q. 悩んでいる子どもに対して、これはやってはいけないといったNGの接し方や注意すべき点があれば教えてください。

悩んでいる時は、問題解決に取り組む最高のチャンスになります。問題解決能力は、私たちが生きていくうえでもっとも必要なサバイバルスキルで、自転車と同様、実戦での練習を繰り返さなければ上達しません。親として気をつけたいのは、このまたとない問題解決の機会(悩み)をお子さんから取り上げてしまわないことです。つまり、親が先回りして解決してしまわない、子どもより一生懸命にならない、悩まずに済むように障害物を取り除いてしまわない、ということです。実践するのはなかなか難しいのですが、「子どものため」が実は親の不安を解消するための行動であることに気づき、今すぐに解決したい衝動を抑える努力に挑戦してみてください。そして、お子さんが間違ったり失敗したりするリスクを大らかに受け止めてあげてください。そっちに行くと壁にぶつかるという選択をしても、本人が真剣に考えて出した答えなのであれば、ぶつかるところまで見届けて欲しいのです。そうして転んだら、また悩んで考える。この繰り返しが良いのです。子どもの経験する失敗は致命的ではありません。ダメージが小さいうちに挫折と敗北感をしっかりと体験してもらい、将来遭遇するかもしれない大人の失敗対処への準備をしておきましょう。同時に、失敗が必ずしもゲームオーバーにはならないことや、また立ち上がることができる自分の強さにも気づいてもらうのです。こうした貴重な学びは、転んだ後にしかやって来ません。失敗の向こう側まで考えたサポートのあり方を考えてみてはどうでしょう。

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