経営を改善させる技術「ITと管理会計」

第8回 予算実績差異分析「その”未達”、どこがズレているんですか?

サンフランシスコ空港近くにあるバッファローフーズUSAのオフィス。
夜遅くにもかかわらず、タジマ君が一人でPCと格闘をしています。

タジマ君:「今期の売上が計画比80%に落ち込んじゃったんだよなぁ…。今流行りのAIで原因を突き止められないかなぁ?
『Why is our sales only 80% of target this quarter?』
ポチっと!」

ChatGPT:「西海岸の景気後退が主因。ラスベガスで大型展示会を開催し、全米から新規顧客を集めましょう」

タジマ君:「むむむ、そうだったのか!」

タジマ君は早速ラスベガスの展示会場をリサーチを始めました。

タジマ君:「ふふふ、ミゾグチ先生にこのことを教えてあげたらビックリするぞ!」

(居酒屋Fuji。いつものカウンター。タジマ君の前にはビールとモツ煮。ミゾグチ先生に色々と話したくてソワソワしている様子です。)

タジマ君:「先生!ちょっと聞いてくださいよ!本社に売上未達の報告を送ったんすけど、『具体性が足りない』ってバッサリ言われちゃったんです。」

ミゾグチ先生:「なるほど。今回は“気合いで頑張ります!”作戦は通用しなかったんだね?」

タジマ君:「それです、それです。つい言っちゃたんですけどね、“気合で巻き返します”って……。で、具体的な改善計画を出せって言われちゃったんです。」

ミゾグチ先生(笑いながら):「それはそうだろうね。でも、なんか余裕があるように見えるね」

タジマ君:「ふふふ、いやぁ、技術の進歩って凄いですねぇ(笑)」

ミゾグチ先生:「え?どうしたの?」

タジマ君:「先生はChatGPTってご存じですか?売上未達の原因も解決策も全部バシッと教えてくれたんですよ!」

ミゾグチ先生:「あっ・・・・・」

タジマ君:「売上未達の原因は西海岸の景気後退が主因で、売上げアップのためにはラスベガスで大型展示会を開催し、全米から新規顧客を集めればいいんですよ!だから、もういくつか展示会場も仮押さえしてるんですよ!(ドヤッ)」

ミゾグチ先生:「AIの答えは検証が必要なんだよ。データも絞らずに漠然とした質問をしたら、見当違いな回答が返ってくるんだよ。例えばだけど、展示会に数十万ドルの費用を掛けたとするでしょう?でも、実際に予算と実績の差異を分析してみたら、全然違う原因かもしれないよ。それに、展示会をやったとしても集客も少なくて効果が無いかもしれないし、広告費と出張費で利益はさらに悪化するかもしれない・・・・・」

どんどんタジマ君の顔色が悪くなっていきます。

タジマ君:「先生、僕はどうしたらいいんでしょうか・・・・。冷静に考えたらとんでもない間違いをしてしまった気がします。」

ミゾグチ先生:「まぁ、落ち着いて。会場はまだ仮押さえなんでしょう?だったら、キャンセルすれば良いだけだよ。まずは地道に予算と実績のズレ、その“差異”を要素分解して、何が原因かを明らかにしていこうよ」

タジマ君:「要素分解ですか……?それもAIにやらせたら良いのかな?」

ミゾグチ先生:「タジマ君!まずは、自分自身がしっかりとやるべきことを理解すること。そして、実際に手を動かしてみることが重要なんだよ。その上でAIを使うのであれば、AIの回答がおかしい時に気づくことが出来るけど、自分が何もわかっていないことをAIに聞いたり、やらせたりするのはとても無責任なことなんだよ!」

タジマ君:「はい・・・。すいません。自分で頑張ります。」

ミゾグチ先生:「わかってくれたなら良いんだ。じゃあ、一緒にやってみよう。例えば、売上予算が900K USDだったとして。製品A・B・Cに分けて実績を見ると、製品Aが予算より40K USD足りない。BとCはむしろ上回ってる。つまり未達の原因は“製品A”に集中してるってことが分かるよね。」

タジマ君:「なるほど、全体だけ見て“全然ダメだ”って思ってたんですけど、細かく見れば“敵”がハッキリしてきますね」

ミゾグチ先生:「さらに、その製品Aについても、“数量が売れなかった”のか、“単価が落ちた”のかを見てみると…」

タジマ君:「たとえば、数量は予算通りだったけど、単価が9 USDで予算より1 USD安かった、とかですか?」

ミゾグチ先生:「そう。そうすると“売れたけど安くなった”のが原因と分かる。じゃあ何で安くなったのか? 想定以上に値引販売が多かった? って深掘りできるというわけなんだ。」

タジマ君:「先生、こういうのExcelでササっと出せるんですか?」

ミゾグチ先生:「うん、できるよ。VLOOKUPではなく、差異LOOKUPだね。」

タジマ君:「先生、そういうとこ、好きです!」

ミゾグチ先生:「ははは、ありがとう(笑)。とにかく、差異分析によって“次はどこを修正すべきか”が明確になるんだ」。未達=失敗、ではなく、“学べない未達”が問題ということだよ。」

タジマ君:「なるほど……これ、いけますね!あの…“売上未達の原因がわかりません”って言って、AIに丸投げしていた昨晩の自分にビールぶっかけたいです…」

ミゾグチ先生:(クスッと笑いながら)「ただね、タジマ君。差異分析が大事なのは分かっていても、会社ではうまく活かされてないことも多いんだよ。」

タジマ君:「へ?それって、やってないってこととですか?」

ミゾグチ先生:「いや、やってはいるんだ。でも、月次会議では“経理部が報告して終わり”。当の部門長たちは“ふーん”で他人事。しかも会議の時間の大半が“報告タイム”で、肝心の“じゃあどうするか”の話に入る前に終了したりしない?」

タジマ君:「あー、それ、ありますね……心当たりしかないですよ……」

ミゾグチ先生:「差異分析は、本来は“原因を知って次に活かす”ためのものなんだ。だから、事前に差異の把握や分析を済ませて、会議では“改善策と実行計画”に集中すべきなんだよね。」

タジマ君:「…じゃあ、僕が差異をバッチリ分解して、本社に“この対策で巻き返します!”って出せば良いですかね?」

ミゾグチ先生:「それ、本社が一番喜ぶパターンだと思うよ。」

タジマ君:「先生、ありがとうございました。AIに丸投げせず、気合だけで何とかせず、“分析”で行けそうな気がしてきました!」

ミゾグチ先生:「お、いつものタジマ君が復活してきましたね。じゃあ次は“人件費の差異分析”でも…」

タジマ君:(ジョッキを持ち上げながら)「いや、今日はとりあえず“ビールの実績超過”から始めさせてください!おかわりおねがいします!」

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Tsunehisa Nakajima / Masaki Mizoguchi中島恒久/溝口聖規

Tsunehisa Nakajima / Masaki Mizoguchi中島恒久/溝口聖規

ライタープロフィール

中島恒久:(Fujisoft America, Inc. COO)
2004年に抽選永住権を取得後、渡米。ベーシストとして活動しながら飲食業、旅行業、食品卸業などで経験を積み、2015年より現職。起業の経験も持つ。グロービス経営大学院にて溝口先生から管理会計を学んだ。

溝口聖規:(公認会計士、グロービス経営大学院専任教授)
グロービス経営大学院専任教授。資格:公認会計士、証券アナリスト、公認内部監査人。書籍:「財務諸表分析 ゼロから分かる読み方・活かし方」PHP出版/MBAアカウンティング(第4版)ダイヤモンド社 連載:週刊経営財務「会計知識録~企業の会計・財務活動を解読~」

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