経営を改善させる技術「ITと管理会計」

第9回 損益分岐点って、要は「元を取るライン」ってことですか!?

いつもの居酒屋Fuji。テーブルの上には焼き鳥と生ビール。タジマ君が、珍しく真顔でグラスを見つめています。

タジマ君:先生……ヤバいっスよ。営業利益が予算未達で、本社から“どう改善するんだ!”って詰められちゃったんですよ。売上増やします!とか、固定費削ります!とかアイデアは出したんですけど、どれが一番効くのか説明できなくて……

ミゾグチ先生:なるほど。“何をやればどれだけ利益が改善するか”を示せないと、説得力には欠けるかな。

タジマ君:まさに、それなんです!結局、“気合で売ります!”しか言えなくて……もう、会議室の空気が凍りましたわ。

ミゾグチ先生:それは寒いね(笑)。でも、そういう時は“損益分岐点分析”の出番かな。

タジマ君:そんえき……ぶんきてん?なんか強そうな必殺技みたいですね。

ミゾグチ先生:必殺技というより、経営の“基礎体力”、かな。損益分岐点分析は、売上と費用を“変動費”と“固定費”に分けて考えることで、どれだけ売ればトントンになるか、どれだけ利益が改善するかを把握する方法なんだ。

タジマ君:売上と費用を分ける……?いや全部まとめて“金がかかる!”でいいんじゃないですか?

ミゾグチ先生:いやいや、それはダメだよ(笑)。例えば、食材や仕入原価みたいに売上に比例して増えるのを“変動費”、そして家賃や社員の固定給のように売上に関係なく発生するのが“固定費”と呼ぶんだよ。損益分岐点というのは売上から変動費を引いた“限界利益”が固定費を上回るラインのことをいうんだ。

タジマ君:先生、僕には限界なんてないですよ!そんなネガティブな感じの利益は嫌です!

ミゾグチ先生:・・・・・・。えーと、限界利益っていうのは会計用語だから、そこには引っかからないで欲しいんだ。

タジマ君:うーーん、わかりました。つまり“元を取るライン”ってことですね?

ミゾグチ先生:(意外とちゃんと理解してるんだな)
うん、その通り。例えば、会社の売上が1億円、変動費率が60%だとすると、限界利益率は40%。固定費が3,500万円なら、損益分岐点売上高は・・・
3,500万円 ÷ 40% = 8,750万円。

つまり、8,750万円売らないと赤字ってことだね。そこを超えた部分が利益になるね。

【解説】
限界利益=売上高―変動費
限界利益率=限界利益÷売上高
限界利益(=売上高―変動費)―固定費=営業利益
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率

タジマ君:おぉ〜、数字でハッキリ出ると説得力ありますね!じゃあ、売上を1,000万円増やせば利益は400万円増えるってことですか?」

ミゾグチ先生:そうだね。損益分岐点分析を使うと、利益が増やすために必要な売上を簡単な計算で示すことができるんだ。

タジマ君:先生、例えば“広告費を100万円削る”とか“電気代を節約する”って改善案を出してみたんですけど、これってどうですかね?

ミゾグチ先生:もちろん無駄を省くのは大事なことだよ。それに、固定費を100万円削れば、損益分岐点が下がるから、それだけ利益改善につながるね。ただ、固定費3,500万円に対して100万円削っても、利益インパクトはそのまま100万円。売上1億円規模の会社にとっては限定的ともいえるよね。

タジマ君:うっ……そう言われると、なんかちっちゃいかも……

ミゾグチ先生:逆に、売上を1,000万円伸ばせれば利益は400万円改善する。どの施策が一番効くかを“可視化”するのが損益分岐点分析の強みなんだ。

タジマ君:なるほど!数字で比べると、効果の大きい施策に集中すべきってハッキリ分かるんですね!

ミゾグチ先生:その通り!思いつきのアイデアを並べるだけでは、本社は納得しないだろうね。改善策のインパクトを定量的に示すことで、優先順位が付けやすくなるんだ。

タジマ君:先生、ありがとうございます!なんとなく、“どれを選ぶか”の判断軸を掴めた気がします!

ミゾグチ先生:それは良かった。改善策をただ列挙するのではなく、損益分岐点分析を使ってインパクトを定量的に示すこと。これが経営における説得力につながるんだよ。

タジマ君:(目を輝かせながら)
よーし、次の会議で“損益分岐点突破戦略”ってドヤ顔でプレゼンしてやりますよ!

ミゾグチ先生:ドヤ顔はほどほどに(笑)。数字で裏付けがあるからこそ説得力があるんだからね。

タジマ君:よーし!じゃあまずは今日の飲み代、損益分岐点を超えるまで飲みますか!

ミゾグチ先生:それは赤字必至だね……。

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Tsunehisa Nakajima / Masaki Mizoguchi中島恒久/溝口聖規

Tsunehisa Nakajima / Masaki Mizoguchi中島恒久/溝口聖規

ライタープロフィール

中島恒久:(Fujisoft America, Inc. COO)
2004年に抽選永住権を取得後、渡米。ベーシストとして活動しながら飲食業、旅行業、食品卸業などで経験を積み、2015年より現職。起業の経験も持つ。グロービス経営大学院にて溝口先生から管理会計を学んだ。

溝口聖規:(公認会計士、グロービス経営大学院専任教授)
グロービス経営大学院専任教授。資格:公認会計士、証券アナリスト、公認内部監査人。書籍:「財務諸表分析 ゼロから分かる読み方・活かし方」PHP出版/MBAアカウンティング(第4版)ダイヤモンド社 連載:週刊経営財務「会計知識録~企業の会計・財務活動を解読~」

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