【ニューヨーク不動産最前線】ニューヨーク新市長の住宅政策と不動産マーケットのこれから

2026年を迎え、ニューヨーク市は新しい市長を迎えました。ゾーラン・マムダニ市長は「民主的社会主義者」として知られ、住宅政策においてもこれまでとは異なる方向性の政策を打ち出しています。

マムダニ市長は「住宅は投資商品ではなく、生活の基盤」という価値観を軸に、主に以下のような政策を進めようとしています。

  • 家賃の急上昇を抑える レントスタビライズ*と呼ばれる特定物件を対象とした家賃凍結(ちなみにNYCの半数近くのアパーがレントスタビライズとされています)。
  • アフォーダブル住宅の供給拡大 市の資金を投入し、10年で20万戸の低価格住宅の建設を目標
  • 富裕層・企業への増税 住宅政策の財源確保を目的としたもの

こうした考え方は、不動産市場の自由な価格形成を重視してきたニューヨーク市(のみならずアメリカ全体)の従来のスタンスとは異なるため、「社会主義的」と表現されることがあります。本人はこれを 民主的社会主義(Democratic Socialism) と呼んでいます。

この新しい価値観が支持を集め、マムダニ氏は市長に当選しました。ところが、住宅価格の値下がりや安定を期待する声がある反面、一方で懸念の声があるのも事実です。

オーナーの立場から見ると、不動産税、保険料、修繕費や資材費など、建物を維持するためのコストは年々上昇しているにも関わらず家賃収入が抑えられると、建物の十分な補修が難しくなり、結果として住環境の質が下がってしまう可能性も指摘されています。また、賃貸人にとっては安心材料となる一方で、オーナー側の収益性が下がれば、物件の売却や新たな投資を控える動きにつながる可能性もあります。実際、市が想定している財源である富裕層や企業の中には、既に他州へ拠点を移しているケースも見られます。実際に私自身の周りでも、この1年でフロリダや海外へ移住した方が何人かいました。

家賃が下がりかつ将来的な値上がりも抑えられるという構想は、賃貸人にとっては魅力的です。ただし、それを支える財源が長期的に安定して確保できるかどうかは、今後の大きな課題です。結果として税負担が広く市民全体に及ぶことになれば、家賃が下がっても生活全体の負担感が変わらない、という可能性も考えられます。

現場にいると、「マーケットが大きく崩れる」というよりも、不動産に対する価値観が少しずつ切り替わっていく過程にあるように感じます。オーナーや不動産投資家にとっては、これまでのような短期的な値上がりを期待

するよりも、「どんな目的で購入するのか」「どれくらいの期間保有するのか」といった点が、これまで以上に重要になる時代かもしれません。

ニューヨークの不動産市場はこれまでも数々の変化を経験してきました。特にここ数年は変化のスピードが急激に加速しているように感じます。今回の市政も、その流れのひとつとして捉えることができるかもしれません。政策の動きを正しく理解しながら、ご自身にとって何がベストかを一緒に考えていけたらと思っています。

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柏原知子 (Tomoko Kashihara)

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

ライタープロフィール

大阪女子大学(現:大阪府立大学)卒業後、CBRE Japanに入社。東京で外資系企業のオフィス移転を担当する商業不動産ブローカーとして働いた後、ニューヨーク勤務を機に住宅ブローカーに転向。1999年より住友不動産販売NYで活躍した後、2021年に米系大手Compassに移籍。趣味は旅行、クルーズ、トレッキングとイタリア語。

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