3D(立体)印刷が、医療に大きな影響を与え始めている。
■四肢切断を回避
ウォールストリート・ジャーナルによると、メイヨー・クリニックで1年前、11歳の少女がまれな骨盤にできた腫瘍(しゅよう)の除去手術を受けた。腫瘍は仙骨や神経に広がり、骨盤のかん骨臼(大腿骨の上端がはまり込む部分)にも侵入していたため、従来なら片足を切断するところだったが、3D印刷の発達でそれを避けることができた。
医療チームは、手術前に患者の骨盤部分の立体模型とその複製を作り、膀胱(ぼうこう)、静脈、血管、腫瘍などの位置を考えながら足を切断せずに腫瘍を除去する方法を探った。執刀したピーター・ローズ医師は「複雑な解剖学的手順を理解するには3Dモデルを使うのが一番。腫瘍によって変化した体の部分を理解し、どこを切ればいいかの判断に役立った」という。
さまざまな医療団体が、3D印刷技術を使って医療を向上させる方法を研究しており、メイヨーは2016年だけで約500個の3D印刷物を作った。メイヨーなどの研究機関は、ストラタシス(Stratasys)、3Dシステムズ(3D Systems)、フォームラブズ(Formlabs)といった3Dプリンターメーカーと提携して、医療現場に印刷施設を置いている。ゼネラル・エレクトリック(GE)やジョンソン&ジョンソン(J&J)も3D印刷を重視しており、GEはさまざまな情報源からの画像を3D構造物にしているほか、J&Jはインクに使える素材の開発に力を入れている。
■市場は4年で2倍に成長?
3Dプリンターは、MRI(磁気共鳴断層撮影)、CTスキャン、超音波を使って得たデータや立体画像を使って、プラスチック、金属、人の細胞組織などさまざまな素材を層状に重ねて物体を作成する。医療分野では、内臓の模型のほか歯科や医療用のインプラント(埋め込み器具)、補聴器、人工装具、薬品、皮膚などの作成にも使われている。
市場調査ガートナーは、19年までに先進国の国民の10%が、体の内外を問わず3D印刷で作られた物と共存するようになり、3D印刷は義肢や埋め込み器具を使う外科処置の3分の1以上で中心的な道具になると予想する。インダストリーARCも、医療用3D印刷市場は、16年の約6億6000万ドルから20年には12億1000万ドルに拡大すると見ている。
ガートナーのアヌラグ・グプタ副社長は「業界はまだ新しいが、医療分野における3D印刷はインターネットや数年前のクラウド・コンピューティングのような大きな変化をもたらす可能性がある」と話した。
■速度、コスト効率、品質が向上
3D印刷の技術は1980年代からあったが、近年はソフトウェアやハードウェアの進歩で、速度、コスト効率、品質が格段に改善した。ストラタシス製プリンターの場合、5年前には1〜2種類の素材を1〜2色で印刷していたが、今では3種類の素材の同時印刷や36万種類以上の質感と色の組み合わせが可能で、柔らかい組織から骨に至るまでさまざまな素材をより正確に複製し、より広い用途に使えるようになった。患者に合わせた個別医療の拡大も、医療における3D印刷の普及を推進しており、特定の患者グループに適した容量や形の薬品生産といった分野でも期待されている。
障壁の1つはコストで、病院が使う産業用プリンターはプラスチックやポリマーを印刷するもので1万〜4万ドルし、情報の変換や印刷にかかる時間など隠れたコストもある。しかし、3Dモデルを使った事前練習による手術時間の短縮や、オンディマンド印刷による無駄の削減、より体に合うため埋め込み器具の交換頻度が減る…といった別の分野でのコスト削減につながる可能性がある。(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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