医療用麻薬オピオイドの乱用が深刻な社会問題となる中、内容の充実した医療保険を従業員に提供する企業が乱用者や犯罪集団の標的にされている。このため、労災保険詐欺の調査が途中で麻薬調査に変わる例が増えている。
■誤用者の医療費は2倍
オートモーティブ・ニュースによると、多くの社員は合法的に薬を処方されているため、問題は根絶が難しい。処方薬が人々を労働から遠ざけているとの見方もあるが、連邦薬物乱用および精神衛生サービス管理局(SAMHSA)によると、処方鎮痛剤を服用する人の約3分の2は働いている。
一方で全米健康統計センター(NCHS)のデータでは、2016年に約1万4400人が 「オキシコンティン」や「パーコセット」といったオピオイド系鎮痛剤の過剰摂取で、また2万100人以上が「フェンタニルといった非メサドン系合成オピオイドの過剰摂取で死亡している。
この状況は企業にとって大きな負担になっており、キャストライト・ヘルスの16年報告書によると、雇用主が負担するオピオイド誤用者の医療費は1人当たり年間1万9450ドルで、そうでない人の1万853ドルの2倍近くに上る。
■寛大な保険を悪用
操舵システムを供給する自動車部品会社ネクステア・オートモーティブ (Nexteer Automotive、本社ミシガン州)のミシガン中部の工場では15年、医療保険を通じて社員に処方された鎮痛剤のコストが数十万ドルも跳ね上がった。労災の申請が劇的に増えた訳でも医療保険の内容が変わった訳でもないため、当初はその理由が分からず、ネクステアの人事担当幹部トニー・バーマン氏は「この種の処方薬だけで従業員4000人の医療コストが1人当たり500ドル増えた計算だった。それほど高い薬でもないため、異常な増え方の説明がつかなかった」と振り返る。1年がかりの調査で、保険の寛大な処方薬提供方針が麻薬の密売人や乱用者に悪用されていたことが判明した。企業セキュリティおよびリスク管理会社ピンカートン(Pinkerton、ミシガン州)に依頼して工場に覆面捜査官を1人配置したところ、最初のシフトが始まって何時間もたたないうちに誰かが近づいて「合成オピオイド系処方薬を買う」と持ちかけられた。
ピンカートンによると、最近はこうした例が珍しくなく、過去18カ月はオピオイド関連の調査件数が社内窃盗の調査を上回っている。労働者がフォークリフトから転落した場合、パーコセットを50錠処方されることを利用して、薬を入手するため6人が交互にけがをして薬を融通し合い、そのうち2人が薬を売り始め、会社から労災保険と薬代を不正に受け取っていたという事件もあった。
ネクスティアでは、調査の結果6人が解雇され、医療保険も会社が全額負担するプランから自己負担プランに変更した。これでオピオイド乱用は幾分収まったように見えるが、人事のバーマン氏は「年間の数字を見ないと確証は持てない」 と話す。氏はさらに、より多くの雇用主が行動を起こさなければ問題は悪化するだけと指摘しながら「薬が大量に入手できる限り、また会社がその支払いを負担する限りこの問題は解決しない」と強調する。 (U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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