ABインベブ、不正行為防止に機械学習を活用 ~ 規制遵守のあり方に革新をもたらす可能性

酒類メーカー大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev、以 下ABインベブ)は、贈収賄といった汚職や不正行為の予防を目的に、高リスクの取り引き先や疑義のある支払いを特定する機械学習技術の開発に3年前に取り組み、現在、その試験運用を進めている。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、膨大な量の社内データを活用して業務の手法や過程に完全なる透明性をもたらす点において、同社の 取り組みは会社組織の規制遵守に新たな道を切り開く可能性がある。

▽独自プラットフォーム「ブリューライト」を開発

ABインベブが開発した独自のデータ解析プラットフォーム「ブリューライト(BrewRight)」は、50ヵ国以上の同社事業からデータを集めて解析する。従来のように問題発生後に調査するのではなく、日ごろから法的リスクを監視し不正行為を先回りして予防することを目指して開発された。

同社はブリューライトによって、疑わしい支払いの調査にかかるコストを十万ドル単位で削減することに成功した。

ABインベブは、2016年にSABミラー(SABMiller)を1000億ドル超で買収したことをきっかけに、規制遵守制度の見直しを始めた。最初に取りかかったのは、さまざまのシス テムで生成されるデータを蓄積する一元的データ貯蔵庫(リポジトリー)の構築だった。規制遵守担当部署にかぎらず、そのほかの部署にも有用なツールの開発を目指してのことだった。

▽疑義解消や調査を大幅に簡便化

ブリューライトは現在、社内の10を超える企業資源計画(enterprise resource planning=ERP)システムのデータと、制裁リスト(sanctions list)や国際的非政府組織であるトランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency International)の「腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)」といった外部資源のデータも活用する。

社内データは、おもに売り掛け金勘定だが、ほかにも経費や規制遵守、調査関連の記録も活用される。

ブリューライトを活用することで、たとえば、調査が必要と判断された取り引きや取り引き先について数回の電話による確認作業で疑義が解消されることが増えた。追加調査が必要と判断された場合でも、規制遵守担当者の手元には調査に必要なデータの大部分がすでにそろっており、従来に比べて調査の迅速化と効率化、コスト削減が可能となった。

ブリューライト計画責任者のマット・ガルビン氏によると、ある取り引き先について3ヵ国で調査を行う場合の費用は約180万ドルだが、ブリューライトを使えば調査対象を6ヵ国に広げた場合でも約25万ドルに抑えることができる。

▽汚職監視への応用は未発達

データ解析と人工知能は、金融業界のように規制が厳しい業界において資金洗浄や詐欺行為の検出を目的に何年も前から広く導入されている。しかし、汚職対策を目的とした応用はまだそれほど進んでいない。

公認不正検査士協会(Association of Certified Fraud Examiners)が約1000社を対象に行った2019年の調査では、収賄や汚職監視のためにデータ解析を活用する会社は全体の22%にとどまった。詐欺対策を目的に機械学習を使う会社はわずかに約13%だった。

▽企業共同体を編成して精度向上や普及もねらう

マイクロソフト(Microsoft)やウォルマート(Walmart)のほか、米国外で汚職調査の対象になった会社でも、事業の高リスク分野に対処する独自の解析ツールを構築している。しかし、ABインベブのプラットフォームは、資金洗浄や独占禁止法違反の予防から二重払いの発見や、ビール贈与の追跡にいたるまで、あらゆる不正行為に対処するよう設計されており、他社の試みと比べて対象の広さと野心の大きさの点で際立っている。

ガルビン氏は、ブリューライトの情報を積極的に公開しており、将来には解析モデルの精度向上を目指し企業共同体を設立したい考えだ。ABインベブの経験を生かして同様のツールの開発コストを下げることができれば、中小企業も同ツールを導入しやすくなる、同氏と期待する。

▽米政府機関も不正行為発見ツール開発に積極的

企業の不正を調査する立場の政府機関もABインベブやそのほかの取り組みに注目し、メディケア(高齢者医療保険制度)での保険請求や証券市場での詐欺行為を発見するためのデータ解析ツールに投資している。

2019年9月にワシントンDCで開催された会議に出席したマシュー・マイナー副司法長官(当時)は、「違法行為があった場合、企業の規制遵守強化策がデータ資源をどのように活用しているかについて、検察官は(企業に)質問するだろう」と話した。

【wsj.com/articles/ab-inbev-taps-machine-learning-to-root-out-corruption-11579257001】 (U.S. Frontline News, Inc.社提供)

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

最近のニュース速報

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  2. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  3. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  4. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
  5. 私たちは習慣や文化の違いから思わぬトラブルに巻き込まれることがあり、当事務所も多種多様なお...
  6. カナダの大西洋側、ニューファンドランド島の北端に位置するランス·オー·メドー国定史跡は、ヴァイキン...
  7. 2023年12月8日

    アドベンチャー
    山の中の野花 今、私たちは歴史上経験したことのないチャレンジに遭遇している。一つは地球温暖化...
  8. 2023年12月6日

    再度、留学のススメ
    名古屋駅でホストファミリーと涙の別れ(写真提供:名古屋市) 以前に、たとえ短期であっても海外...
ページ上部へ戻る