人間の脳の働きをモデル化した実験的なコンピューターチップが、自動車に音声やジェスチャーによる指示機能を搭載する動きを加速させる可能性がある。
■低消費電力
ウォールストリート・ジャーナルによると、ニューロモーフィック・コンピューティング(脳型電算)として知られるこの最先端技術は、インターネットを介して車に無線接続する従来のコンピューターや画像処理半導体(GPU)よりも電力消費量が大幅に少ない。今の車には、多くの音声コマンドやジェスチャーコマンドを認識できる人工知能(AI)の許容力がないが、これはそうした機能を働かせるためのエネルギー要件が揃っていないことが一因になっている。
先進技術のR&D拠点アクセンチュア・ラブズ(Accenture Labs)の技術研究者ティム・シェイ氏によると、すでに自動車メーカーは現行チップの拡張性問題に直面し、電力消費量の少ないAI技術の必要性を認識している。メルセデスベンツは最近、自己学習型チップが車両で使うAIのエネルギー効率、速度、精度の向上にどう役立つか調べるため、インテルが主宰するIntel Neuromorphic Research Communityに参加した。そこで入手した知見を車内やその周辺へのAI活用につなげたいと考えている。
■5年後は主要アーキテクチャーに
インテルのニューロモーフィック・コンピューティング・ラブを率いるマイク・デイビーズ氏は、同社が5年以内に脳型電算チップの販売を開始する可能性があると話す。このチップを使った車載機能としては、搭乗者が寒いと感じていることを認識して自動的に温度調整する、車の始動や窓の開閉を指示する音声コマンドを認識する…といったことが考えられる。チップは車自体に組み込まれ、システムがクラウドとつながる必要はない。
アクセンチュア・ラブは2020年、自動車メーカーと協力してインテル・ラブ製の自己学習型チップ「Loihi(ロイヒ)」に音声コマンドを認識させる実験を行っており、チップの消費電力は標準的なGPUの1000分の1で、GPUより0.2秒速く応答したという。
マサチューセッツ大学アマースト校の研究によると、1つのAIモデルを開発すると米国の平均的な自動車5台が耐用年数にわたって排出する量と同じ二酸化炭素(CO2)が発生する可能性がある。しかし自己学習型コンピューティングを使えば、従来のコンピューティング・ハードウェアでモデルを訓練するのに必要な量よりはるかに少ないデータで機械学習モデルを訓練でき、モデルは画像やおもちゃを一度見ればそれを永遠に認識できるヒトの赤ちゃんと同じように学べる。
この技術は、AIシステム、特にニューラルネットワーク(脳の神経細胞をモデルにした情報処理システム)に使われる主要なコンピューターチップGPUに比べて消費電力が格段に少ない。またこの技術は「イベント駆動型」なので、音声やジェスチャーコマンドなどによって機能が起動した場合に限って計算し、エネルギーを消費する。
クラウドを使わずエッジ(末端の装置)でコンピューティングできるため、AI 機能は森林地帯など通信状態が悪い地域でも常に機能する。
ガートナーは、自己学習型チップは25年までに新しい高度なAI分野の主要なコンピューティング・アーキテクチャーになり、GPUに取って代わると予想している。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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