産業ロボットは中国製造業を変えるか 〜 人件費高騰と工員不足が引き金に

 工員の人件費が高騰している中国の製造業現場で産業ロボットが普及する可能性に関心が集まっている。

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、大量の低賃金工員による人海戦術によって世界の企業から製造業務を請け負うことで世界の製造工場という地位を確立した中国では昨今、多くの若者たちが工場で働くことをためらう風潮が高まっており、その結果、人件費高騰と工員不足が深刻化しつつある。

 それを受けて、中国製造業界でも産業ロボットの本格的導入によってそれらの課題を解消しようという動きが出始めるという見方が強まっている。

 その結果、産業ロボットを生産する業界にも新たな動向が表面化し始めている。現在、産業ロボット製造業界には、スイスのABBグループやドイツのクカ(Kuka)といった老舗のロボット・メーカーに加えて、デルタ・エレクトロニクスやフォックスコン・テクノロジー・グループのように、電子機器の受託製造を本業としていたアジア企業が産業ロボット生産に進出し、さらに、デンマークのユニーバサル・ロボティクスのような新興企業の参入も相次いでいる。

 台湾のデルタはこれまで、アップルを含む大企業向けに電源アダプターを製造してきたが、2012年に低価格の産業ロボットを開発する事業に進出。デルタは現在、4つの関節を持つ1本腕のロボットを試験中だ。デルタ製ロボットの価格は約1万ドルで、その種のロボットとしては一般的価格の半分以下だ。

 一方、ABBのように、再プログラムが可能で人間との共同作業に対応できる高性能ロボットの開発を中国向けに進める企業もある。その種のロボットは非常に高価だが、中国における人件費の高騰によって価格差が縮まっているという。

 また、産業ロボットの発達は、米国に経済的恩恵をもたらすという期待もある。産業ロボットを利用することによって、米国メーカーは、一部の製造ラインを本国に戻すことが可能になるためだ。

 ただ、労力と時間をかけて中国で供給網を確立してきた製造拠点を離れて工場を米国内に移すことは実質的には困難という指摘もある。

 さらに、産業ロボットが中国製造業界に浸透するまでにはしばらく時間がかかるという見方もある。たとえば、工員相手であれば工程内容や勤務予定を簡単に変えることができるが、ロボット相手ではそれは実行命令の再入力と検査という非常に面倒で時間のかかる手続きが発生する。

 昨今では、技術製品の製造周期が短期化していることから、9〜18ヵ月というその周期ごとにロボット稼働を再設定および再調整することは、工場運営側にとってかなりの負担となる。

 劣悪な労働環境でやり玉に挙がっているフォックスコンでは、2014年までに100万台のロボット腕を導入して工員を減らす計画だったが、それらの諸問題が原因となって、導入にはさらなる時間がかかる見通しだ。フォックスコンの工場群で働く工員総人口は110万人に上る。

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