大学の特許事業、ほとんど利益生まず 〜 起業を奨励すべき、と専門家

 理工系の研究機関を持つ研究大学(research university)は、遺伝子組み替えや脳内の化学成分、コンピュータ・チップ設計といった先端技術を研究する学内研究室が取得したさまざまな特許を元手に収入を増やそうとしているものの、大部分は不成功に終わっている。ブルッキングス研究所の調査で分かった。

 ニューヨーク・タイムズが報じたブルッキングス研究所の調査結果によると、特許を持つ大学は、外部との特許使用契約の折衝や事務手続きを専門にする「技術移転事務所(technology transfer office)」を設けることが多いが、大学8校のうち7校は特許収入では事務所の運営すらできないのが実状だ。

 一般的な契約では、特許使用料(ロイヤルティ)を研究者と学部、そして大学一般基金の三者で分け合うため、研究者には大きな副収入をもたらすものの、大学組織にとっては何の足しにもならない。

 報告書を作成したウォルター・ボルディビア氏は、「大学経営側としては、特許使用料の徴収ではなく新事業の育成にもっと積極的になる必要がある」「特許に基づく会社を設立することを研究者や教授に奨励し、その会社と大学がもうかるようなライセンス契約を結ぶべき」と話す。

 大学は、1980年制定の連邦法によって、政府支援を受けた研究から生まれた特許の所有権を保持できるようになり、それが、大きな経済的恩恵を大学にもたらしているとみられてきた。

 大学技術管理者協会(AUTM)の調査によると、米大学は年間合わせて4000件以上の特許使用契約を交わし、総額20億ドルの特許使用料収入を得ている。しかし、大きな利益を生む画期的な発明をし続けているのはほんの一部で、特許収入の大半はそれらの大学に集中している。

 コロンビア大学は、異なるDNAを細胞に注入する技術の特許によって年間7億9000万ドル、ニューヨーク大学は自己免疫疾患の治療薬「レミケード」の元となった特許で年間10億ドル以上の収入があるが、そのほかのライセンス契約のほとんどは利益につながっていない。

 ボルディビア氏は、「現行の形態が悪いわけではないが、選択肢を増やす必要がある」と指摘。たとえば、大学が外部と結ぶ特許使用契約の件数は毎年増えているが、大学が特許をもとにした会社の所有権を持つ例(10件に1件)や新会社を設立する例(約7件に1件)は少なく、その状態は過去数年間ほとんど変わっていない。

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