第67回 緊急事態と連絡先

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

 2月14日、日本に一時帰国中の友人がLINEで「フロリダ、大変なことになってるね」とメッセージを送ってきた。早速、ニュースをチェックすると、パークランドにある高校で銃乱射事件が発生、多数の死傷者が出ている模様だと報じられていた。「また、起こってしまったのか」というのが、正直な感想だった。

 今回の事件では、マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校の元生徒が、アサルトライフル銃なるものを持ち込み、教師を含む17人を殺害。テレビ局の取材に答えた同校の高校生は「数日前に学校内で乱射事件に備えた訓練が行われたけれど、あまり真剣に参加しなかった。だから現実に起こってしまって、どうしたらいいか分からずパニックに陥った」とコメントしていた。誰しもが自分の身に降りかかるとは思わないだろう。また、たとえ真剣に訓練に参加していたとしても、目の前に本物の銃撃犯が現れた時に、訓練と同様に冷静に対処できるはずがない。

 しかし、乱射事件は決して他人事ではない。実際に、このフロリダでの事件は、2018年に入ってアメリカの学校を舞台にした、死傷者が出た乱射事件として6件目だという。振り返ると、数年前にマサチューセッツの小学校の児童たちが襲われた事件、ロサンゼルス郊外のサンバナディーノにある小学校での事件の記憶がよみがえってくる。私たちが暮らす場所から車で15分ほどのガーデナ高校でも、外部による犯行ではなく、高校生が持ち込んだ銃が暴発して重傷者を出すという事故もあった。

ソーシャルメディアに
学校への脅迫

 そして2月も終わろうとしている平日の朝、ニナを高校に車で送り届けると、普段よりも見回りの警官の数が増えているような気がした。ドロップオフゾーンで車をチェックする係のスタッフは、深刻な面持ちで車内のドライバーをうかがっている。いつになく緊張した雰囲気が伝わってきた。

 帰宅すると、校長から次のようなeメールが届いていた。

 「親愛なる学生と保護者の皆さん。レドンドビーチ警察が、複数の学生が関与した、当校を襲う可能性を示唆した内容のチャットのスクリーンショットを当校に送ってきた。そのチャットでは、誰によって、またいつ、その襲撃が実行に移されるのかについては特定されていない。今回の予兆を受けて、今朝は普段より多人数の警官がキャンパス周辺に配置された。そして終日、学校側と警察とは密な連絡を取っていく。安全は我々の第一の優先事項だ。引き続き注意深い監視を続けるが、保護者は学生に対して、ソーシャルメディアに学校への脅迫のような書き込みをふざけて行わないように厳しく注意してほしい。また、学生本人は周囲で不穏な動きを察したら、学校の時間内なら学校当局に、時間外なら警察にすぐに連絡してほしい。ソーシャルメディアに学校への脅迫の書き込みをした者は退学を含む処罰の対象となる。本日は通常通りの授業が行われる。平穏で生産的な1日となるように願う」

 学校が常に最新の状況を知らせてくれることは重要だ。そして保護者は毎年、新学年を迎えるたびに、緊急時の連絡先として複数の電話番号やメールアドレス、さらに保護者本人に連絡がつかなかった時の親戚や友人の電話番号などを記入して届ける。以前は緊急時イコール地震などの災害時だと理解していたが、最近はむしろ、乱射事件に備えて、という意識の方が強くなっている。そして、その連絡先を記入する際には、身分証明に書かれた氏名と同じ名前を届けなければならない。日本人の名前は呼びにくいからと、アメリカンネームの通名を届ける人が時々いる。しかし、それが運転免許証に書かれた名前と異なる名前だと、緊急時に子どもを学校に迎えに行った際に引き渡してはもらえない。「緊急時などまずないから」と書類記入を甘く見ていると、もしもの時に苦しい立場に追い込まれるのは私たち親子なのだ。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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