第68回 なぜ数学が苦手?

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

 ニナはほぼ毎日「今日はどんな1日だった?」と聞いてくる。私は仕事で大変だったことや、興味深い人物に会ったことなどを話す。かたやニナは、その日、学校で驚いたこと、笑ったこと、憤慨したことなどを話してくれる。そしてある日、彼女が思い出し笑いをしながら、こんな話をした。

「今日ね、数学の時間に簡単なクイズが出たの。2+2×4っていうのが問題」。引っ掛けだな、とは思ったが、私は「10だね」と答えた。ほとんどの生徒がそう答えるとニナも思ったそうだ。ところが、「大勢の子たち、16って答えたの。ここは小学校か? って思ったよ」。ちなみにニナは高校2年生だ。

生徒の名誉のために言っておくと、彼女の高校はアカデミックのレベルが優秀なことで知られる。勉強面では「かなり頑張っている」はずの学校なのだ。

しかも、間違えた生徒たちは「なぜ、16ではなくて10なのか」を聞いてきたそうだ。うーん、これはかなりの重症だ。

そこでネットで「なぜ、アメリカは数学が遅れているのか」をウィンドウに打ち込んで検索してみた。すると、まず出てきたのはPISAという世界共通テストの結果。このテスト、フランスの教育関連団体が3年ごとに全世界の54万人以上の15歳の生徒を対象に行っているもので、前回実施された2015年の米国の数学の順位は、先進国71カ国中38位とほぼ真ん中。点数で見ると、1000点満点で米国の生徒の平均スコアは470、国際平均が490。平均より20点も低い。しかも1位のシンガポールのスコアは564。米国は100近くも引き離されている。

アナリストによると「米国の生徒たちは優しい問題の正解率は高い。ただし、問題がより高度に複雑になると、極端に正解率が下がる。その点、シンガポール、日本、韓国といった上位の国の生徒たちは、問題が複雑になってもしっかりと取り組んで正解を導き出しているケースが多い」そうだ。また、別の専門家は「2008年のリセッション以降、教育予算を削減したアメリカでは、起こるべくして起こった結果」と断言。

不統一な教育システムの弊害か

本題に戻ろう。では、なぜアメリカの生徒たちは数学が苦手なのか? その答えについて、ある引退した数学教師がエッセーで次のように説明していた。「アメリカは機会の国である。子どもの親たちはより良い仕事、より良い収入を得る機会を求めて新しい土地へと引っ越す。その犠牲になるのが子どもの教育だ。彼らは土地ごとに異なる教育システムや新しい教科書に翻弄され、本を読んでいればかなりの読解力やボキャブラリーが身につく英語などとは違い、独学が難しい数学や科学に関しては苦戦することになる」。

確かにアメリカは広い。州が違えばシステムも違う。しかも通常の小学校は5年制のはずなのに、なんと同じ中学に進む学区内の小学校で6年制のところもあるなど、「統一されていない」こと甚だしい。

次にその引退教師が主張するのが「アメリカの教師は忙しい。授業だけを担当しているわけではない」ということ。アメリカの教師だけが忙しいわけではないので、ほかの国の状況に無関心というしかない。さらに「アメリカの教師は生涯、教師ではない。キャリアの途中でたまたま教師をやっているにすぎないことが多い」と続けている。ここまでくると、その引退教師の言い訳としか思えない。
少し前に高校主催の「高収入を得るには子どもの大学での専攻を理数系にすべき」というセミナーに行ったばかりだが、掲げる目標と実態が食い違っているように思うのは私だけだろうか。

結局、学校任せが不安な親たちは、子どもを、公文をはじめとする塾に通わせることになる。ニナは公文には行かなかったが、小学校の頃に韓国系の塾に放課後毎日通っていたのが、かなり役立っているように思う。そして以前は「イラストレーターになりたい」と言っていたのが「建築家」に興味を示すようになってきた。立派な理数系だ。このまま、まっすぐ進んでほしい、と私は密かに願っている。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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