海外教育Navi 第17回
〜海外赴任が決まった時の家族への伝え方〜〈前編〉

記事提供:『月刊 海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団に所属するプロの相談員たちが一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.海外赴任が決まりましたが、妻も子どもも乗り気ではありません。家族を前向きにさせる方法はありませんか。

海外子女教育振興財団の「渡航前配偶者講座」を受講されるお母さんたちから、海外赴任に対する不安の声をよく耳にします。

おもなものとしては、
①英語および現地のことばが話せないこと
②現地での隣人とのつき合い
③現地での子どもの学校
④中学生や高校生の子どもが行きたがらないこと
⑤共働きなので自分は仕事を辞めなければいけないこと
等々。人は誰でも先が見えないことには不安を感じるものです。だから「いま」を守ろうとします。しかし海外生活を「新たな希望の旅」と考えると心のあり方も変わってきます。

「人生は旅人」、旅は見聞を広め、幅広い人間に成長させてくれます。そう考えると渡航前のこまごまとした準備も、前向きに捉えることができます。家族そろって海外赴任をするには以下のようなことが重要になってくるでしょう。

(1)しっかりと家族でコミュニケーションを取る。
(2)不安になっていることを確認する。
(3)「なんとかなる」「なんとかする」と思えるように家族を導く。
(4)そのために家族の一人ひとりに耳を傾ける。

まずは夫婦での話し合い

赴任が決定したら、まずは夫婦で話し合い、赴任地の情報を入手しましょう。夫が海外赴任のことを告げると妻が拒絶反応を示す場合があります。拒絶反応の原因はどこにあるのか、夫婦間でしっかり意見交換をしましょう。

当財団の渡航前配偶者講座もお勧めします。受講生から受講後、「同じ心境の仲間がいて勇気をもらった」「心の安心材料がたくさんあり、助かった」「前向きに海外赴任を捉えられるようになった」「赴任地での生活像が描けた」等々のコメントが寄せられます。「知ること」で、前に進むことができるのです。

そして家族で話し合う

夫婦間で話したあとに家族全員で話し合いましょう。まず父親から、海外転勤になったこと、家族皆で赴任すること、赴任国と都市名、出発する時期も伝えます。すると、子どもたちからいろいろな質問が出るでしょう。その際、お子さんの話に耳を傾け、丁寧に回答してほしいのです。ここでしっかり子どもと向き合うことは、のちのちのためにも大切です。

子どもの不安に寄り添う

小学生以上の子どもを帯同する場合は、子どもが何に不安を感じているのかを受け止めてあげてください。いまの学校生活や仲間に別れを告げるつらさや淋しさなど子どもの心も複雑です。「どうして家族もいっしょに行かないといけないの?」という質問も出るかもしれません。そのときこそ、「大切な家族とお父さんは離れたくない」「よい機会だから新しい場所で家族いっしょにさまざまな体験をしたい」など父親の本心を伝えましょう。

赴任先で子どもの学校をどう選択するかも大切です。現地校、インターナショナルスクール、日本人学校等と住む場所でも選択肢は変わってきます。海外生活中の教育方針についても夫婦でしっかり話し合い、ときには子どもも交えて、皆が納得したうえで決めることも重要です。

子どもが見えてない世界を語る

子どもは、赴任地がどのようなところなのか、把握できていません。家族で赴任地の情報を話題にしましょう。さらに日本以外の世界を見ることで、面白い発見ができる、新しい仲間ができる、新しい学びのチャンスが広がることも伝えましょう。親が出国前にマイナスのことを口にすると、子どもは影響を受けやすいので、プラスの声かけが大切です。

中・高生の帯同

思春期の特徴をご存じですか。この時期は第二次性徴として知られる急激な身体の変化によって、昨日までの子どもだった自己イメージが揺らいできます。さらに中学や高校への進学による社会的な地位や環境の変化も起こり、身体的、社会的変化は他者に対する認識さえも変えてしまいます。

周囲から突然、大人として扱われるようになるなど、自分が自分であるという自我同一性の危機(アイデンティティ・クライシス)に陥った青年期の若者たちは、「自分とは何か」を捉え直す必要に迫られます。そのような時期に、友人と別れ、ことばも自由に伝わらない異国での生活は想像以上につらい現実であったと、経験者は話しています。言語のみならず、自分の内面のバランスを取ることにも苦しむ時期なのです。

この年齢の子どもは親に口答えもします。自分の気持ちをどのように伝えてよいのかわからず、トゲのある感情的な気持ちをそのまま口にしたりします。これを真に受けると親子げんかに発展します。

またこの時期は自分の感情を論理的に正当化できるようになったことがうれしくて「論理に酔う時期」「へりくつの時期」と定義している心理学者たちもいます。親は感情的にならずに、話をしっかり聞いて、論理を十分に展開させてあげましょう。

高校生の子どもが行きたがらず、説得するのに疲れてしまったと言うお母さんがいました。私はまずお子さんの言い分をしっかり傾聴し、行きたくない気持ちを受け止めることから始めるように伝えました。父親からは、父親の思い、家族いっしょに行きたい理由をお子さんに手紙で伝えることを勧めました。結果、それをきっかけにして両親としっかり向き合えたことで、お子さんは自分の気持ちを整理することができ、いっしょに海外に行って、現地校でがんばっていると連絡がありました。子どもは試行錯誤を繰り返しながら大人になっていくのです。

※次回に続きます。次回記事は12月15日(土)に掲載予定です。

今回の相談員
海外子女教育振興財団「渡航前配偶者講座」講師
小木曽 道子

ドイツとアメリカ・ロサンゼルスに合計10年間滞在。アメリカではふたりの娘を現地校に通わせ、現地校のボランティア活動に参加。地区教育委員会で2カ国語諮問委員会の議長を3年間務め、海外から転居してきた親子をサポート。帰国後、海外子女教育振興財団「現地校入学のための親子教室」の講師を務め、現在は「渡航前配偶者英語講座」の講師および「外国語保持教室」のサポートスタッフを兼務しているほか、東京都青少年育成課・防犯課「こころの東京革命協会」チーフアドバイザー、「日本マチュピチュ協会」理事を務め、カウンセラーとしても活動している。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約7万9000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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