PHIARO, INC.
アメリカのビジネスは、今

今、アメリカのビジネスシーンはどうなっているのだろう?
困難をどう乗り越えたのか。成功の鍵はどこにあるのか。
キーパーソンに、アメリカでのビジネスのヒントを聞いた。


カリフォルニア州アーバインにオフィスを構えるPHIARO, INC.プレジデントToshihiro Iwasakiさんに話を聞いた。

アメリカでの事業内容

PHIARO, INC.は、オートショーやコンベンションに展示する自動車メーカーなどのコンセプトカーの一括製作をメインの業務としており、2018年で米国創業30年を迎えました。

元々、コンセプトカーは自動車メーカーで内製していました。しかし、最近では各メーカーの車系は広がり、量産開発は多忙を極めています。さらに「CASE」と言われる「C=コネクティビティ(接続性)、A=オートノマス(自動運転)、S=シェアリング/サービス(共有/サービス)、E=エレクトリック(電動化)」などの新しい技術開発やサービス競争が激化。このような業界再編と言われる波に対応するために、各メーカーは合併、業界を飛び越えた業務提携などを加速させています。そのため、たった1台しか作らない手間のかかるコンセプトカーの製作はアウトソーシングすることが多くなってきているのです。

製作工程1: Framework

業界内では、我々のような自動車のデザイン模型を製作する会社をモデルメーカーと呼んでいます。デザインや設計は全て3D の CAD を使用します。また、大型のCNCマシンや3Dプリンターなどを使ったものづくりのデジタル化が飛躍的に進んでいます。しかし、最終的な作業は全て人の手で行います。総合的な技術力がモデルの品質を左右するのです。最新のデジタル技術と人間の持つ感性を活かしたアナログな技術を組み合わせで、時代に合った最高のものを創り続けていくことが我々の使命だと思っています。

ビジネスのポイント

少数精鋭ですのでオールマイティではなく、ここだけは誰にも負けないという個の部分が大事になります。つい指摘しやすい短所ばかりに目が行きがちですが、まず最初に長所を見つけて伸ばすことで、個をつくることができます。それは拘りに変わり、技術になっていきます。そして、何よりも仕事が好きになり熱中することができるのです。その技術をプロフェッショナルになるまでレベルを高め、各々が仕事をこなすこと。それこそが責任をもった仕事なのだと思います。それは、コンセプトカーの品質に如実に現れるのです。製作したコンセプトカーが無事にお披露目になるまでは、製作した者の責任です。あらゆる準備を怠らず、最後まで立ち会います。それは、コンベンションにはエグゼクティブの重要な発表は基より、デザイン、セールス、マーケティング、現場設営、映像、音響、照明、メディア、ホスピタリティなどに想像を超える人々が関わっていることを私は知っているからです。

製作工程2: Infusion Carbon FRP積層

我々は、ものづくりが好きな人間の集まりです。最近では大きなプロジェクトを任されることが多くなってきています。それは、プロジェクト全体のスケジュール管理やマネジメント、社内では部下の教育、面談、評価など、ものづくり以外の部分のコミニュケーション業務が増えるということでもあります。元々、ものと向き合うのが好きな技術者ですから、人とのコミニュケーションも両方得意という人はあまり多くいません。やがて、得意なものづくりをする時間は減り、コミニュケーション業務によるストレスが増加。モチベーションは下がり、自分の仕事は一体何なんだろうと悩み始めてしまいます。もちろん一度はそういう経験を積むのも大事ですが、長引けば本来その人が持っている輝きが失われてしまいます。

一般的に、ベテラン技術者は若い人への教育をどうするかを重要な業務と考えていると思います。そもそも他人に何かを教えること自体、とても難しいことです。相手の性格や感情、技術レベルも千差万別で、すぐに良い結果がでることはまずありません。当然上手くいかないわけですから、真面目な人ほど他人の面倒をみる教育が一番のストレスになっていて、自分でそれを抱え込んでしまっている現実があります。ほおっておけば、ベテランは精彩を欠き、若手もワガママになるだけで製造能力と品質は落ちていきます。どうやってひとりひとりのストレスをなくし、現場がものづくりに集中できるかが課題でした。また多様性の時代、職人気質の頑固な拘りの技術が必要になってきているのも肌で感じていました。まずベテラン技術者には一番得意な技術で作業するプレーヤーに戻ってもらいました。得意なことを毎日するだけで良いので、余計なストレスはなくなります。毎日が活き活きとして、技術を探求する技術者の姿に戻っていきました。さらに新しい技術も覚えることで、ただ職人に戻るのではなく、誰も追いつけないようなスーパープレーヤーに進化するのです。最初はワガママな若い人たちも、やがてその歴然とした技術の差や活力の違いを肌で感じとります。いかに技術というものが難しいもので、大事であるかということを理解するのです。そして、スーパープレーヤーに憧れて、必ず自ら努力をして能力を開花させていきます。マニュアルなしの教育でも人は必ず育ちます。

製作工程3: CNC Milling

会社はいろいろな指示をするのではなく、もっとひとりひとりと向き合うべきだと思うのです。各々が何を考えているかを理解しないまま、横やりを入れているようなやり方では問題は表面的にも解決しません。大企業でなくとも、社内は硬直化して変化しにくい体質の会社になってしまいます。勇気を持って接することも必要になりますが、本来進むべき道を明確化して、不要な業務を取り払うだけで良いのだと思います。そのためにも、社内にはヒエラルキーは作らず、皆同じ立場で平等な目線でいられるような環境づくりを心掛けています。社員全員が主役であり、自分の考えを織り込んだものづくりを徹底しています。さらに新しい個も取り入れて、他社にはできない究極の品質を目指しています。

日米のビジネスの違い

  1.  感情を表に出すアメリカ。
  2.  自由な発想のアメリカ。
  3.  対等なアメリカ。
  4.  家族を一番大事にするアメリカ

コンセプトカーは最終完成にあわせて、クライアントの確認会があります。そこでクライアントのデザイナーが感情をあらわに騒ぎ出したのを目の当たりにしました。「TOO NICE」など、あまり聞いたことのない言い回しの英語表現を聞いたり、握手やハグなど全身でその喜びを伝えるアメリカ人の人間性がとても嬉しく感じられました。仕事という枠に囚われて、ものを創る喜びを忘れかけていました。指摘のないように、つい細かい部分に目がいきがちだったのですが、本来はそのクルマが表現するコンセプトやデザイナーの意志をしっかりと理解することこそが、原点であることをアメリカで学びなおしました。ですから、100 点満点の評価なら、必ず200点をとるつもりで製作をしています。必ずお客様が期待している以上のものを創り上げ、感動してもらうことを心掛けています。

製作工程4: Body Sanding

クライアントからも斬新な製作方法のアイデアが出るときもあります。関係者が肩書にとらわれずに自由な発想で同じチームとしてプロジェクトを進めていく大きな一体感をアメリカで味わいました。またアメリカでは企業の大小問わず、対等である印象を強く受けました。自社の技術を正当に評価してもらえる相手とビジネスをする、といった強いプライドがあり、どこにも負けない技術を持つ重要さや、ものの価値についても考えさせられました。
我々はものづくりの会社ですから、一番大事なのは昔も今も技術なのです。この部分は世界共通と思っていますので、言葉や文化の違う米国でも仕事ができるのだと思います。良いものをつくるという志は同じなれど、全員違った技術を持ち変化に対応する。変わらない部分と変える部分を明確化することで日米の違いは乗り越えられると思っています。

米国進出希望者へのアドバイス

古くからある米国のモデルメーカーの中で、後発且つ、日本人がやっているようなモデルメーカーがビジネスに食い込むには、ものづくりの考え方や技術力の違いをきっちり打ち出すことが必要でした。何でもできますではなく、特化したインパクトを出さないと箸にも棒にも掛からぬということを肌で感じました。仕事の山谷も大きく、このままで業務を続けていけるのか毎日心配でした。当時は自分の信念といいますか強い志がないからだったのかもしれません。
日本にいたときは、日々の業務の中で起きた問題を解決していくのが自分の仕事だと思っていました。ただそれは、問題の根本を解決するまでには至っていなかったと思います。学生時代は自由奔放でしたが、会社に入って年数が増すうちに、とにかく失敗しないようにとか、自分のことより周りの目を気にしたり、自分の気持ちを抑え込むのが当たり前でした。ストレス社会だからという固定観念もあり、仕事は大変というよりも辛いものに変わっていってしまいました。そんな周りを気にする毎日で感覚が麻痺して、自分の芯などはなくなってしまったのだと思います。そんな状態で米国に来たので、環境の違い、言葉、文化全てにおいて厳しい洗礼を受けました。その時は一生懸命だったのかもしれませんが、表面的に仕事をしてきた自分につけが回ってきたのかもしれません。毎日が挫折の連続でしたが、社長という立場からも泣き言はいえません。入社当初に立ち返り、現場に入り一から出直しました。ものづくりの楽しみを再び感じながら、自分自身を取り戻し、様々なモデル製作を経て、最終的に内外装一体の高品質なコンセプトカーの製作を一番の売りにすることにたどり着きました。ただそこには、深く相手と向き合わなくてはいけないような、自分の勇気をためすような決断が多くありました。

製作工程5: Paint Polish

今は最高のものづくりをするという強い信念もあり、自由なマインドで仕事をしています。それは、自分にはない素晴らしい能力を持つ社員に支えられているからこそであり、本当に感謝しています。ただ、その自由の先には一切の保証はありません。しかし、その保証のない不安こそが考える原動力であり、生きている実感も強く湧いてくるのです。当然ですが、常に考えを研ぎ澄まし、誰よりも不安や問題に立ち向かい、会社を未来へ主導していくのが自分のなすべき仕事であ り、責任だと思っています。

私がまだ日本にいたときに、私の人間性なども見抜き、渡米が強く進めてくれた方がいます。そういう尊敬する人との出会いで私の運命は大きく変わりました。異国の地では、その不安や不便さから自分の存在の小ささにも気づきます。自分自身をさらけださずには誰も助けてもくれません。そして多くの失敗や挫折から、自分自身が何者なのかを見つめなおすことができるのだと思います。まず本来の自分を取り戻し、スタート地点に立つことです。そして、どのような人たちと一緒に仕事をするかで運命は変わっていきます。素晴らしい仲間との出会いがあると信じて渡米してきてください。

今後の展望、ゴール、夢

我々は基本的にメーカーの黒子的な存在ですので、完成したコンセプトカーに PHIARO のロゴが入ることはありません。しかし、その品質感やクルマから出るオーラのようなものを感じ取ってもらい、これは PHIARO が製作したコンセプトカーだろうと思わせられるくらいの技術と情熱も込めています。自己表現をものづくりを通して行い、世界中の人に見てもらうこと。全ての人が感動できるようなものづくりをする。そこには、言葉や、文化、人種、性別も関係ないことをこの眼で見てきました。そういった人間の心を動かすようなものづくりを続けることで、信頼、期待していただき、お客様が困っているときの切り札としての存在であり続けたいと思っています。コンセプトカーというものは、世界に一つだけであること、特別であること、実際に見て触りたいなどの人間の欲求をかきたてるものが揃っています。これからの時代は、人間の本能を研究することが、さらなる価値の追求に繋がると思っています。ですから、自分は最前線に赴き、未来を予測しながら今後のものづくりがどう変化するかを体得することに注力しています。

日米での違いの見出しに書きましたが、アメリカでは仕事以上に、家族を一番大事にしているということです。当たり前のことですが、渡米当初は家族のために働いているんだから遅い帰宅や休日出勤も我慢してくれといった感じでした。仕事をしているのは、とにかく自分なんだといった大きな勘違いをもったまま毎日を過ごしていました。とにかく会社をどうにかしなければと気持ちがあったので、お互いに向き合うことが大事であることを会社で実践することを優先するあまり、家庭内では家族だから大丈夫だろうと甘くみてしまっていました。とにかく、その時は自分では会社も家庭も精一杯頑張っていたつもりでしたが、家族にとっては孤独な異国の地であったことをすっかり忘れていました。やがて妻がしてくれている家事、子育てが、いかに難かしいことを体感して、自分の意識が変わりました。自分の考えが正しいという論理から、まず相手を認め、自分自身を変化させることで信頼が生まれました。そして、仕事も家族の時間も穏やかなものに変わっていきました。仕事で渡米したのが6年前。ここまで自分が仕事に注力できるのは、支えてくれる妻のおかげであり、家族であり、社員であり、関わる全ての人とのかけがえのない時間が今の自分をつくりあげてくれたのだと思います。すべての人に感謝しています。


創造性のあるものづくりにおいて完璧というものはありません。常にもっとこうしたら良かった、次はこうしようという思いがすぐに湧いてくるものです。永遠の課題がある、この仕事に感謝してます。私は、「常に1番難しい仕事を受注する」と社員に言い続けています。それが時に儲からないものであっても、難しい仕事に挑戦しなければ自分たちの技術レベルはあがりませんし、全員の技術を結集させればつくれないものはないと思っているからです。効果効率主義や利益至上主義ではなく、自分たちにしかできない技術の追求こそが企業を継続させるものだと考えています。
時代と環境の変化に気づき、自分自身を変化させ、人の心を動かすような感動できるものをつくり続けていくこと。それが私の生きる道です。その道の先に、明るい未来があると信じています。

PHIARO, INC.

■ホームページ:https://www.phiaro.jp/
■住所:9016 Research Drive, Irvine, CA 92618 U.S.A
■電話:949-727-1261
■General: inc@phiaro-usa.com

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