マッサージ師
藤野 哲也

文/福田恵子 (Text by Keiko Fukuda)

 高度な資格や専門知識、特殊技能が求められるスペシャリスト。手に職をつけて、アメリカ社会を生き抜くサバイバー。それがたくましき「専門職」の人生だ。「天職」をつかみ、アメリカで活躍する人たちに、その仕事を選んだ理由や、専門職の魅力、やりがいについて聞いた。

「愛情持って人に接する 身体だけでなく心も前向きに」

 サーフィンが好きなこともあって、カリフォルニアに旅行で来るうちに「サーフィンには最高の環境と気候、ここで生活したい」という気持ちが強くなりました。以前、日本では国家資格の鍼灸師と柔道整復師の資格で、治療院を経営していました。アメリカに来るために、7年前、そこを弟子に譲り渡して、一念発起してロサンゼルスへ。来れば何とかなるだろうと思っていましたが、何ともならなかった…。まず、ステータスがないとどうしようもない。ビザをスポンサーしてくれるところがない、そしてアメリカで鍼灸師の資格を取得するのはかなりハードルが高い。当時は英語にも自信がなかったので、仕切り直しで一旦帰国しました。

 日本では改めて友達と会社を起こして、マッサージ、リフレクソロジー、鍼灸を提供する店舗を展開しました。そこで5店舗まで増やした段階で、満を持して再渡米を決行。今度はインターネットで下調べをした上で、投資ビザを取得後、さらに比較的容易なマッサージプラクティショナーの資格を取ろうと、サウスベイマッサージカレッジという学校に入学しました。カリフォルニアではインターンシップを含み、500時間の受講でライセンスが申請できるのです。晴れて2012年10月にライセンス獲得、今はトーランスのリラクゼーションサロン「Embellir」と鍼・カイロプラクティックのクリニックオフィスを中心にマッサージを施しています。

 人の健康に興味をもったのは、高校時代、母親に送り込まれたヨガ合宿がきっかけでした。そこでの断食などの様々な健康法の体験を通じて東洋医学に興味を持ち、国際鍼灸専門学校を卒業して資格を取得しました。鍼灸師としてのキャリアから数えると、施術経験は25年になります。日本で培った柔道整復術(骨折、脱臼、打撲、捻挫の処置とリハビリ)はアメリカでも評価される医術でもあるし、自分のオリジナルな手技マッサージは鍼治療のような「響」を感じ、治癒能力を活性させるとして評価を得ています。

1回の施術に120%の力を注ぎ込むことがすべて

 アメリカと日本での違いは、実際問題は何も変わりません。言葉が違うだけですね。この仕事の基本は、「クライアントが求めるものを提供する」ということです。しかも、言葉による説明だけでなく、身体や気を通じて「言葉を超えた何か」を感じることもできます。どのような環境においても本当の自分と自然は何も変わらないということです。日米で違う点を敢えて探すとすれば、多民族国家ゆえに人々の常識が異なるために、説明と同意がより必要であること。結局は自分自身の言葉の表現力の未熟さに苦労しています。

 ただ、業界自体はかなり事情が違います。前述のように、ここカリフォルニアでは500時間の受講で資格が取れてしまうので、誤解を恐れずに言えば「あまり身体についての知識がないマッサージ師」が溢れています。その結果、マッサージ1時間20ドル程度という価格破壊も可能になるわけです。

しかし、個人的に私はそれでいいと思っています。なぜなら、そういう所こそ、価格のハードルが低いことでマッサージ未経験者にとっての最初の入り口になりえるからです。

 この仕事の喜びは、施術によって体調をよくしていった結果、仕事が上手くいくようになった、競技でよい結果が出た、などクライアントの生活の質や運気の向上につながったという声が聞けることです。そういう意味でも、マッサージ師に向く人というのは、自分自身が健康なのはもちろんのこと、愛情を持って人に接することができる人だと思います。それが一番の条件になります。

 アメリカでの鍼灸資格取得については、今後ゆっくり取り組んでいこうと思っています。目標も特に持っていません。この仕事は、今、自分がいてクライアントがいて、その施術に100%、いや120%の力を注ぎ込むことがすべてだと考えているからです。その1回1回が重なって自然と先につながっていくのです。

もともと、ビザさえあれば自分はどこでもやっていける自信があったし、アメリカに来たことに満足しています。日本から一緒について来てくれた妻も「人生一度きりだから好きなことをやりましょう」と言ってくれています。
Fujino-san

My Resume
●氏名:藤野哲也(Tetsuya Fujino)
●現職:マッサージ師
●前職:鍼灸師、柔道整復師(日本)
●取得した資格:Massage Practitioner (State of California)
●ビジネス拠点:ロサンゼルス近郊
●その他:週末はマリブやサンクレメンテでサーフィンを満喫。
●ウェブサイトなど:websho.net/relax/

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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