
ビールを飲みながら足でペダルをこいで街を観光するツアー
Photo © Mirei Sato
酪農王国の「公式ドリンク」
ブラッディー・メアリー
アメリカ中西部の人は、よく飲む。
昼も夜も、ビールで乾杯。夏は、野球場でゴクゴクゴク。寒い冬は、雪降る中のフットボール観戦で、飲む飲む飲む。そして、かーっと体内から温まる。
寒波が襲う路上でも、茶色の紙袋を片手に平然と座っている人がいる。中身はきっと、ウォッカだろう。
さすがに朝からは飲まないでしょう…と思ったら、甘い甘い。寝起きにぴったりのカクテル。それがブラッディー・メアリーだ。
それって、飛行機の中でよく出てくる、ウォッカをトマトジュースで割った、あれですか?——と思ってしまった人は、初心者だ。中西部では、あれをブラッディー・メアリーとは呼ばない。
ウィスコンシン州は、アメリカの酪農大国だ。なんといっても、チーズがうまい。プロ・フットボールNFLのホームチーム「グリーンベイ・パッカーズ」の試合に行けば、熱狂的なファンが「チーズ・ヘッド」(チーズの形をした帽子)をかぶっている。
州の最大都市ミルウォーキーは、ビールの生産地として世界的に有名だ。ミラー、パブスト、シュリッツがここに工場を構えていた。ドイツ系の移民がもちこんだ食文化が根づいており、「ビールにチーズにソーセージ」というのが大方のイメージだ。
でも、聞く人に聞けば、ウィスコンシンの伝統的な「オフィシャル・ドリンク」は、ビールではなくて、ブラッディー・メアリーだと教えてくれる。州が定めているわけではないけれど、バーやレストランではどこでも、ブラッディー・メアリーが飲める。みんな一緒の味ではなく、たいがい、その店のこだわりがはいっている。
トマトベースのブラッディー・メアリー・ミックスに、ウォッカと、ユニークなスパイス。そしてトッピング。セロリを刺すだけ、なんていうヤボな店はない。基本はオリーブ、ピクルス、チーズだが、ソーセージやハンバーガー、なんでもアリで、盛ってくる。
さらに、「チェイサー」として、ビールがつく。なんという贅沢だろう。これは、ウィスコンシンならではだ。前述の「ソーベルマンズ」では、ビールもパイントサイズだった。州外から来た知らない客だと、バーテンダーに「ビールは頼んでませんけど…」なんて言ってしまうところ。
冬が長いウィスコンシンでは、元来、保存食づくりの伝統がある。夏場にとれた新鮮なトマトを缶詰にして、野菜はピクルスにする。だから年中通して、おいしいブラッディー・メアリーが飲める。
赤いドリンクには、ウィスコンシンのすべてが詰まっている。
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