H-1Bビザ、大手アウトソーシング会社が独占
〜普通の米企業は対抗できず
- 2015年11月13日
外国人の特殊技能者向けに発行される短期就労ビザ(査証)「H-1B」は、現在は発行枠のほとんどがシステムを熟知した一部の国際アウトソーシング大手に渡っており、一般の米企業が制度を利用したいと思っても非常に難しい状態になっている。
海外雇用を促進?
ニューヨーク・タイムズによると、H-1Bビザは、米企業が高い技術を持った外国人を雇って人員の空きを埋め、ビジネスを成長させられるよう議会が設定した特殊ビザで、年間の発行数は一般枠が6万5000件、大学院卒向けの特別枠が2万件となっている。
申請の受け付けは毎年4月1日に始まり、早い者順に処理され、すぐに発行枠に達した場合はコンピュータによるくじ引きでビザ取得者が決まる。以前は締め切りまでならいつ申請しても取れた時もあったが、近年は景気の回復に伴い、アウトソーシング会社が受付開始と同時に大量の申請を行うため、1週間でも遅れると受け付けさえしてもらえない状態だ。
アウトソーシング会社は、米企業から大規模な業務委託契約を獲得するため、H-1Bビザを使って主にインドから大量の労働者を呼び寄せており、結果的に米国人が職を奪われたり雇用が海外に流出したりする例が増えている。ビザ発行制度を専門に研究しているハワード大学(ワシントンDC)のロニル・ヒラ教授は「アウトソース会社が本来のプログラム利用者を押しのけており、H-1Bによって雇用が海外に流れている」と指摘する。
大手20社が4割を取得
ヒラ教授が連邦の記録を分析したところ、2014年に最も多くのH-1Bを取得した20企業のうち13社は国際アウトソーシング会社だった。トップ20社は、ビザ枠全体の約40%に相当する約3万2000件のビザを取得しており、1万を超える残りの企業に回った数は非常に少なく、申請の約半分はビザ発行枠の上限に達したという理由で受け付けを拒否されている。
申請は1人1件しかできないが、各申請者の保証人になる会社には申請数の上限はないため、社員の多いアウトソーシング会社ほど多数の申請が可能で、くじに当たる確率が高くなり、1社で1万4000件以上申請した例もある。近年大量のH-1Bを取得しているのは、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)、インフォシス(Infosys)、ウィプロ(Wipro)といったインドのアウトソーシング大手のほか、ニュージャージー州のコグニザント(Cognizant)、アイルランドのアクセンチュア(Accenture)など。
国内技術者でつくる協会の代理人を務めるブルース・モリソン弁護士は「彼らは、このビザを使ってより安い労働力を提供できるよう、多くの時間と資金を投じて規則の範囲内で1つの商売を成り立たせている」と批判する。
アウトソーシング会社は法の抜け道も熟知している。連邦法は多数のH-1B労働者を雇用する企業に「米国人労働者を外国人と置き換えない」という宣誓をさせる一方で、H-1B労働者に年6万ドル以上の賃金を払う場合は例外で、各社がこの規定を利用している。このため多くのアウトソース会社は年6万ドルまたはそれをわずかに上回る額で臨時雇用の形で外国人を雇っている。年収6万ドルは平均を大きく上回る額だが、全米各地の経験豊富なIT労働者の所得はこれよりはるかに高い。
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